育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

シンチグラフィ検査を受けた馬における調教馬場と疲労骨折による跛行の解析(MacKinnonら2015)

 カナダ(トロント)とアメリカ(バージニア)の馬病院で、シンチグラフィ検査を受けた馬についての調査が行われました。

 疲労骨折の所見率はダート調教で23.0%、合成材コースで31.7%という結果でした。しかし、調教コースだけでなく、調教方針も骨折発生に影響する重要な要素であると思われます。

この文献の調査対象となった馬は、何らかの異常を認めてシンチグラフィ検査を受けており、今後は比較可能な条件設定をした前向き研究が必要であると結ばれています。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由

 調教馬場が疲労骨折の発生に与える影響に関する情報は限られている。

 

目的

 核シンチグラフィ検査を受けた平地競走のサラブレッドにおいて、長骨および骨盤の疲労骨折による跛行の割合に与える調教馬場の影響について評価すること。

 

研究デザイン

 回顧的研究

 

方法

 2つの馬病院(A:トロント馬病院、B:ペンシルバニア大学獣医学部)で、病院Aは2003-2009年、病院Bは1994-2006年の期間でシンチグラフィ検査を受けたサラブレッド平地競走馬について評価した。病院Aに来院した馬は一つの調教場でトレーニングされており、ここの主要な馬場は2006年8月27日よりダートから合成材のコースへと変更された。病院Bに来院した馬は2つの異なる集団に分かれ、多くの調教師が使うダートコースで調教されていた馬と、一人の調教師のみが使用していた芝コースで調教されていた馬であった。すべてのシンチグラフィ検査画像は、一人が盲目的に評価した。フィッシャーの正確確率検定およびロジスティック回帰解析を適宜用いて、P<0.05を有意水準とした。

 

結果

 病院Aからは528のシンチグラフィ検査を評価し、257頭はダートで、271頭は合成材コースで調教されていた。このうち、合成材で調教していた馬において疲労骨折の所見率は31.7%で、ダートで調教していた馬の23.0%より高かった。合成材で調教していた馬は、ダートで調教していた馬と比較して後肢や骨盤および脛骨の疲労骨折の割合が高かった。

 

結論

 本研究から、調教コースが診断された疲労骨折の割合に影響する根拠が示されたが、他の要素、たとえば調教方針(Philosophy)が重要なようである。調教馬場と疲労骨折の割合や致命的でない筋骨格系の損傷との関連を完全に解明するために今後の前向き研究が必要である。