育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

英国競走馬の骨盤と脛骨疲労骨折にかかわる因子の症例対照研究(Verheyenら 2006年)

骨盤と脛骨の疲労骨折が診断される前の1ヵ月の調教距離は、50kmをピークに、距離が延びるほど疲労骨折のリスクが増加しました。

砂を主体としたオールウェザーコースによる調教では疲労骨折のリスクが増加しましたが、症例数が少なく解析ができませんでした。

   

 参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

競走馬の産業において主な損失の原因であるにもかかわらず、サラブレッド競走馬の調教中に発生する筋骨格系損傷のリスク因子を調査した疫学的な研究はほとんどない。我々は最近、英国における競走馬の調教中の骨折発生率の算出およびリスク因子の同定を行うため大規模な疫学的調査を行った。13名の調教師から馬の取り扱い、毎日の調教記録および骨折に関するデータを受けとった。データは2年間(1999-2000年)、2つの連続するシーズンの平地競走馬のものであった。本研究は、この集団の中で骨盤および脛骨の疲労骨折発生に関連する要素を調査するための網羅的な症例対照研究で判明した所見を記述する。症例は通常の画像診断で骨盤または脛骨の疲労骨折と確認したものと定義した。年齢、性別、運動履歴および調教コースを説明変数とし調査した。症例において骨折の30または60日前の期間でキャンターまたは高速運動を行った距離の合計により調教を定量した。条件付きロジスティック回帰解析を用いて、30または60日の期間それぞれに多変量モデルを構築した。我々は、運動の距離が長いことが骨盤および脛骨疲労骨折のリスク増加と関連すること、調教コースが違うと骨折リスクが異なることを仮説とした。骨折前30日の期間では、調教師による補正をすると、骨盤および脛骨疲労骨折のリスクはキャンターの距離が延びるごとに増加し、50kmをピークにそれ以上では減少した。骨折前60日の期間では、この傾向は明らかではなく、調教距離と疲労骨折のリスクに明らかな関連はなかった。ある特定の砂を主体としたオールウェザーコースを使うことが多いと疲労骨折のリスク増加と関連していたが、この結果にの解釈には注意が必要である。コースの管理やその組成が関わっていると思われるが、症例数が比較的少ないため、この変数は本調査では解析していない。調教距離や馬場で補正しても調教師と疲労骨折リスクの違いに関連があったが、年齢や性別で補正すると関連はみられなかった。