育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

競走馬の胃潰瘍の所見率と発生分布(Beggら2003年)

 馬の胃潰瘍は、競走馬のほとんどにみられる疾患であることが、数々の調査で判明しています。

今回紹介する文献では、345頭(うちサラブレッド331頭)のうち、86%で胃潰瘍がみつかったとされています。胃粘膜が損傷した状態を評価する重症度分類は、潰瘍の深度や面積に基づいて行われます。この研究における胃潰瘍の分類は、「G0:所見なし、G1:粘膜表面のみ、G2:一部粘膜下織に達する、G3:粘膜全層に達する」でした。さらに胃粘膜の半分以上に潰瘍が認められる場合、ひとつグレードを上げるというルールが定められていました。

この調査では、幽門部(胃の出口に近いところ)の評価も行われていました。おもに胃酸を分泌する腺部粘膜がほとんどを占めるこの領域は、175頭で評価され、このうち47%に潰瘍がありました。また、この部位の潰瘍のグレードは低いことも明らかとなりました。

   

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 目的

 競走馬の集団における胃潰瘍の所見率と割合を報告し、幽門部および幽門洞の潰瘍の内視鏡所見を記述すること。

 

デザイン

 回顧的症例研究

 

方法

 345頭(331頭のサラブレッドと14頭のスタンダードブレッド)の競走馬の胃内視鏡検査の医療記録を回顧的調査した。胃潰瘍の所見率、発生分布および重症度を記録した。無腺部および腺部粘膜の病変について、幽門洞と幽門部をグレード分類して比較した。

 

結果

 競走馬の86%で胃潰瘍が見つかった。ヒダ状縁周囲の無腺部に最も多くみられた。幽門部は175頭で検査され、47%に潰瘍があった。無腺部粘膜の病変があることと、幽門部の病変があることに関連はなかった。病変の部位と重症グレードには低い相関がみられ、幽門部の潰瘍スコアは明らかに無腺部潰瘍のスコアより低かった。

 

結論

 胃潰瘍は競走馬の多数にみられる。幽門部は重要な潰瘍の部位である。潰瘍が1か所にあることと、その他にあることとは関連がなかった。しかし、部位と病変のグレードには弱い相関があり、幽門部潰瘍のグレードは低かった。