育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

競走馬の胃の病変に関わる要素(Murrayら1996)

現役サラブレッド競走馬に関する胃潰瘍の調査をまとめた報告があります。

この調査では、調教中のサラブレッド競走馬では、93%に胃潰瘍病変が認められました。性別、年齢、抗炎症薬などの投薬歴では差が見られず、直近2ヵ月の出走の有無が病変グレードと関連していました。

また、胃潰瘍が認められた2歳馬で2-3か月後に再検査を行うと、潰瘍病変のグレードは悪化していました。

 

参考文献 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

競馬場で調教しているサラブレッド種馬67頭で胃内視鏡検査を実施した。また、2-3か月後には35頭で再検査を行った。年齢は2-9歳で、2歳16頭、3歳32頭、4歳以上19頭であった。 67頭のうち42頭は初回の検査前2ヵ月間で出走しており、残りの25頭は調教を受けていた。62頭(93%)で胃粘膜の潰瘍が1つ以上見つかり、直近で出走していた42頭では全て潰瘍が存在した。再検査を行った35頭中32頭(91%)は初回の検査で胃潰瘍病変があり、再検査でも全て病変があった。病変の重症度を分類するため、4つの部位の胃粘膜無腺部のグレードを0-10で評価した。最も高い病変グレードの平均値は、初回(3.63)よりも再検査(4.89)の方が有意に高かった(P<0.01)。再検査の方が最大病変グレードが高かった馬は24頭、差がなかった馬は5頭、低かった馬は6頭であった。2歳馬では初回と再検査の病変グレードの最大平均値の差が最も大きく、初回1.75から再検査4.00まで増加した(P=0.014)。胃腺部粘膜の潰瘍も0-10でグレード分類したが、これには初回と再検査の間に差はなかった(初回1.89、再検査1.90)。性別、競走歴、直近2ヵ月のNSAIDs、全身糖質コルチコイド、ACTHおよびフロセミドの投与について、病変のグレードを比較した。競走歴を除き、これらの比較で無腺部と腺部の平均病変グレードに有意差はなかった。このことから、本研究では性別や投薬歴が潰瘍の重症度に与える影響はないと示唆された。検査からさかのぼって2ヵ月の期間に出走した馬は無腺部の平均最大病変グレード4.51で、出走していない馬は2.36であり、出走していた馬のほうが有意にグレードが高かった(P<0.01)。一方で、腺部の平均病変グレードは出走していた馬で1.93、出走していなかった馬で1.13であり、差は認められなかった。