育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

サラブレッド競走馬における無腺部胃潰瘍の横断的研究(Vatistas1999)

調教しているサラブレッドのほとんどが胃潰瘍を持っていることはこれまでに多くの調査で明らかとなってきています。では、その具体的な影響はどうでしょうか。

 

この調査では、調教しているサラブレッド競走馬において、82%が胃内視鏡検査で胃潰瘍病変が確認されました。このうち、胃潰瘍を原因とする臨床症状が認められたのは39%で、胃潰瘍の病変グレードが高いほど疝痛や被毛の悪化がみられることが示されました。このことから、調教しているサラブレッド競走馬では、その多くが胃潰瘍に罹患していますが、潜在的な疾患であり、コンディションに与える害は小さいことが推察されました。

 

サラブレッド競走馬の集団のなかでは、症状を示すほど重度な胃潰瘍はそれほど多くないようです。しかし、確定診断のために胃内視鏡検査は必須であり、その病変の重症度は症状と関連します。

 

参考文献 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

競走しているサラブレッドでは、胃潰瘍が比較的頻繁に認められるとされてきたが、それが健康やパフォーマンスに与える影響を明らかにした大規模な研究はない。調教しているサラブレッド競走馬202頭が往診している獣医師により選別され、胃内視鏡検査による評価が行われた。潰瘍の数と重症度を明らかにした。無腺部の胃潰瘍は82%で認められた。73頭(39%)の馬は胃潰瘍に一致する臨床症状を示した。FurrとMurrayによる重症度スコアが高くなるほど、被毛の粗悪(P=0.03)、疝痛(P=0.03)および血清クレアチニン濃度の増加(P=0.029)が関連してみられた。血清アルカリフォスファターゼ(ALP)およびクレアチニン濃度を除き、胃潰瘍と血液学的検査および血清学的検査の数値とは関連がなかった。 本研究では、調教中のサラブレッド競走馬では胃潰瘍の所見率が比較的高いことが確認された。胃潰瘍は潜在的ではあるが、まれに疝痛の原因となるし、馬のコンディションに与える害はより小さなものであった。胃潰瘍の診断は胃内視鏡検査に基づいてなされるべきであるが、胃潰瘍の病因や臨床的な重要性について解明するためには今後の研究が必要である。