競走馬の脛骨骨折は、ほとんどが粉砕骨折で、内固定による整復や支持を行うことが困難で予後不良と判断されるケースが非常に多い骨折です。
この骨折部位は、疲労骨折もよく発生することが知られています。疲労骨折の特徴は、競走馬としてキャリアの浅い、デビュー前の馬に多く発生するということです。また、ある程度長期間の休養を挟んだ場合にも起きやすいことが、運動内容に関する調査で明らかとなっています。
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今年発表された以下の文献では、カリフォルニアの競走馬において、脛骨完全骨折発症馬の剖検所見と運動歴が回顧的に調査されました。
ここでは、やはり完全骨折にいたった脛骨骨折のほとんど(93%)は粉砕骨折であったこと、73%は2-3歳で発症し、運動歴が明らかだった28頭のうち57%が未出走馬で、36%は休養明けであったことなどが報告されました。
また、脛骨疲労骨折を示唆する所見である仮骨の形成は61頭中65%で脛骨近位部に認められ、先行する疲労骨折との関連が示されました。
背景
競走馬の死亡の原因の3%未満が脛骨骨折である。いくつもの競走や調教中の骨折と先行する疲労骨折との関連が明らかになってきたが、脛骨完全骨折はそうではない。
目的
競走馬の脛骨骨折について記述し、骨折発症馬と対照馬において、シグナルメントおよび運動歴を比較すること。
研究デザイン
剖検報告書を用いた回顧的調査
方法
1990-2018年の期間で、脛骨完全骨折を発症した馬の回顧的調査を行った。シグナルメントと運動歴は、骨折発症馬と①脛骨骨折以外の運動器損傷で死亡した馬、②運動器以外の原因で死亡した馬、③年齢、性別およびイベントのマッチした対照となる競走馬と比較した。脛骨骨折の発症率は、カリフォルニアで公式な調教や競走の記録が1度でもある馬に対して算出した。年齢、性別および発症肢について、骨折発症馬と対照馬でχ2乗検定およびフィッシャーの正確確率検定を用いて比較した。運動歴は、公式な記録における高速調教、競走および休養期間(60日以上高速調教や出走がない期間)の回数および割合に変換した。変数は群間でロジスティック回帰解析を用いて比較しP<0.05を基準とした。
結果
115頭の馬で脛骨骨折が発生していた。97%は片側性に発生し、左が50%、右が47%であった。発症時の多くは調教中(68%)で、年齢は2歳または3歳が73%を占めた。骨折はほとんど(93%)が粉砕しており、骨幹部(44%)の斜骨折(40%)が多かった。61頭の馬で、仮骨を調査したところ、64%で骨折と関連する仮骨がみられ、多く見られた部位は近位(65%)と遠位骨幹部(27%)であった。運動歴がわかった28頭の競走馬のうち、57%は未出走で、36%は休養をとっていた。発症馬は対照馬と比較すると、公式記録では調教回数および出走数が少なく、運動している日数が少なく、出走や調教で走った距離の合計が少なかった。(P<0.05)
主な制限
28年間にわたり、複数の病理医による剖検報告書を回顧的に調査したこと。
結論
競走馬のキャリアの初期において、脛骨骨折は先行する疲労骨折と関連していた。ほとんどの骨折は、近位外側の疲労骨折と関連していた。