育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

外掌側手根骨間靱帯の剥離骨折の所見率と外科治療への反応(Beinlichら2005)

 

はじめに

馬の手根関節掌側にある靭帯は、主に内掌側手根骨間靭帯と、外掌側手根骨間靭帯があります。

内掌側靭帯は損傷や裂離骨折が多く報告されています。この靭帯は、橈側手根骨遠位外側面に起始し、第三手根骨近位掌内側と第二手根骨近位掌外側に付着します。

一方で、外掌側靭帯は、尺側手根骨遠位内側面に起始し、第三手根骨近位掌外側および第四手根骨近位掌内側に付着します。

内掌側靭帯では、靭帯の損傷や断裂などに関連して付着部での裂離骨折が報告されてきましたが、外掌側靭帯では関連は不明で、単発の骨折が疑われていました。

 

文献で分かったこと

骨折の発生率は、コーネル大学に来院する馬のうち0.5%でした。

12年の調査期間中に37頭の骨折が確認されました。26頭は関節鏡視下で摘出術を受け、19頭は手根中央関節からの骨片摘出を同時に行いました。追跡調査が可能であった20頭/22頭は運動に復帰できました。一方で保存療法は11頭で選択され、追跡調査した9頭中5頭のみ運動に復帰できました。サラブレッドは17頭含まれており、15頭が手術を受けました。関係ない理由や追跡できなかった症例を除き、11頭/12頭が競走復帰することができました。

この骨折は稀な疾患ですが、関節鏡手術による骨片摘出を行えば、競走復帰の予後は良好といえそうです。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

目的

 外掌側手根骨間靱帯の剥離の診断を確立すること、剥離と跛行との相関を明らかにすること、来院する馬におけるこの剥離の所見率を出すこと、剥離骨片の外科的な除去に対する反応を評価すること。

 

デザイン

 回顧的研究

 

動物

 外掌側手根骨間靱帯の剥離を伴う37頭の馬

 

方法

 外掌側手根骨間靱帯の剥離を呈した馬の医療記録とX線画像を回顧し、競走成績と馬主への電話聞き取りにより追跡調査を行った。

 

結果

 1990年3月1日から2001年12月31日の期間に前肢跛行診断のため来院した6418頭のうち、37頭(0.5%)において外掌側手根骨間靱帯の剝離を認めた。すべての馬で尺側手根骨の外掌側手根骨間靱帯の付着部から剥離した骨片がみられた。関節鏡視下の骨片摘出術を行った22頭が追跡調査可能で、このうち20頭(91%)が運動復帰できた。9頭は保存療法が選択され、5頭が運動復帰した。オッズ比を算出したところ、外科治療を行った馬は、保存療法の馬の8倍復帰しやすかった。12頭は、この靱帯の剥離以外に他の骨片骨折が同じ関節になく、このうち9頭は追跡調査可能で、8頭は運動復帰できた。

 

結論と臨床的関連性

 馬において、外掌側手根骨間靱帯の剥離骨折は跛行の原因になり、関節鏡視下での掻爬術は治療の選択肢となる。運動復帰の予後は良好である。