育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

調教初期にみられる浅屈腱のエコー所見の変化 ほか(Gillsら)

育成期のサラブレッド競走馬では、浅屈腱の横断面積増加がみられることがあります。成長期の屈腱に運動負荷がかかることでこのような症状が出現するのですが、詳しいメカニズムはわかっていません。また、経験上、これらのうち数%程度の割合で屈腱炎を発症しますが、これを画像上で見分けることは難しく、臨床症状から判断するしかないのが現状です。

このような浅屈腱の肥大化は、これまでいくつかの文献で報告されています。

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

6頭のサラブレッド競走馬を調教開始4ヵ月で臨床検査と超音波検査を行って浅屈腱を評価した。超音波検査は臨床的な解釈とコンピュータを用いた評価を行った。研究終了時にすべての腱組織を組織学的に評価した。コンピュータを用いた超音波画像の解析では、調教を経ることで平均横断面積の増加および平均エコー輝度の減少という傾向が明らかになった。調教を経ると、横断面積の増加とエコー輝度の減少には逆の相関がみられた。2頭で軽微な浅屈腱炎の症状がおきた。超音波検査では、浅屈腱炎の1頭で、発症前後で比較すると発症した部位の横断面積増加とエコー輝度の低下がみられたが、統計学的に有意な差ではなかった。臨床的、超音波検査により屈腱炎を発症している部位は、組織学的にみて血管およびリンパ管は太く壁が厚かった。この変化は、他の馬では研究終了までにみられなかった。馬の浅屈腱は、超音波画像上では、調教早期には横断面積が増加し、エコー輝度が低下するという適応が起きる。

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

50頭のサラブレッドを調査した。すべての競走馬は4ヵ月以上の調教を行い、レースと同じ速度での調教を経験しており、うち24頭は出走歴があった。すべての馬は検査時点で異常なかった。超音波検査は7.5MHzのトランスデューサーで、液体を満たしたパッドを用いて行った。掌側軟部組織の評価は、副手根骨基部から4,8,12,16,20,24cmの位置の画像を得た。画像を保存し計測した。画像解析プログラムから、浅屈腱および深屈腱の横断画像より横断面積および平均エコー輝度を算出した。浅屈腱および深屈腱は、近位から遠位までそれぞれの位置で左右で比較した。浅屈腱と深屈腱の関係は、同一肢のそれぞれの位置で検証した。浅屈腱では左右で各位置における横断面積および平均エコー輝度に有意差はなかった。それぞれの位置での横断面積は、副手根骨から4cmで1.01±0.12cm²、12cmで0.95±0.14cm²、24cmで1.12±0.15cm²であった。平均エコー輝度は副手根骨から4cmで2.34±0.34、12cmで2.03±0.38、24cmで2.04±0.35であった。深屈腱も左右で横断面積と平均エコー輝度に有意差はなかった。深屈腱の横断面積は、副手根骨から4cmで1.13±0.18cm²、12cmで1.01±0.12cm²、24cmで1.75±0.29cm²であった。平均エコー輝度は副手根骨から4cmで2.60±0.46、12cmで2.49±0.49、24cmで2.50±0.44であった。左も右も、同一の肢において浅屈腱は深屈腱と比較して断面積が小さくエコー輝度は低かった。浅屈腱、深屈腱ともに砂時計型で、副手根骨から12cmの位置で最も横断面積が小さかった。平均エコー輝度は、浅屈腱、深屈腱ともに近位から遠位に行くにつれて下がった。この結果から、臨床的に正常で調教されているサラブレッド競走馬では、左右で比較して副手根骨からの位置が同じところで横断面積やエコー輝度に有意差はないことが示唆された。これは深屈腱でも同様であった。それぞれの位置で、浅屈腱は深屈腱と比較して横断面積は小さく、エコー輝度が低いことも示唆された。