育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

化膿性滑液嚢炎における細菌培養:細菌は予後に影響するか(Taylorら2010)

化膿性滑液嚢炎は、滑膜への細菌感染を原因とする病態です。

 

滑液検体から細菌が培養され、さらに薬剤感受性検査まで可能であった症例は、それをもとにした抗菌薬投与治療を行います。しかし、実際には滑液検体から細菌培養陰性となる症例が多く存在します。細菌培養陰性の馬では、エンピリックな治療を開始し、治療への反応をみながら抗菌薬を選択します。

細菌培養が陰性となる理由は、滑液内の細菌が少ない/存在しない、検体の処理がうまくいっていないもしくは培養できる菌ではないなどが考えられます。

国内の研究において、培養できない細菌を検出するため、細菌由来の遺伝子情報を検出するPCR検査が行われており、その情報から病態への影響が推察されています。一方でこのような細菌は培養できないため、薬剤感受性試験ができません。そもそも病原性が低い可能性も残っています。

 

滑液検体の臨床検査で、細菌培養の有無により症例の予後が影響を受けるのか検討した調査があります。この報告では、細菌培養陽性の症例は短期と長期の予後が悪く、特にS. aureus(黄色ブドウ球菌)が培養されると予後が悪いようです。

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由

 滑液培養検査が短期および長期的な予後に影響するかについて調査が必要である。

 

仮説

 化膿性滑液嚢炎から採取した滑液の培養検査が陽性だった症例では、陰性だった症例と比較して、生存や運動復帰できる割合が少ない。

 

方法

 化膿性滑液嚢炎の検査のため、2つの馬二次診療施設に来院した成馬の記録を調査した。滑液の細菌培養を含むひと通りの臨床検査に供した馬を対象とし、206頭が組み入れられた。化膿性滑液嚢炎は、滑液中の有核細胞数>30×10^9/Lまたは90%以上が好中球、臨床所見、細胞学および細菌学的所見に基づいて診断した。長期的な追跡調査は、電話による聞き取りで行った。Fisherの正確確率検定、単変量解析を用いてすべての成績を解析した。

 

結果

 67頭が細菌培養陽性で、このうち14頭(20.9%)が感染が持続したことが原因で安楽死となった。一方で、細菌培養陰性の馬では、139頭中2頭(1.44%)のみであった(P<0.001)。生存および長期的な運動復帰は、細菌培養陽性馬で50%(24頭/48頭)、細菌培養陰性馬で70.5%(74頭/105頭)であった(P=0.01)。退院まで生存し、その後長期的な運動復帰ができた馬の割合は細菌培養の有無で有意差はなかった。Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)が培養された馬では、退院までの短期生存は他の菌種と差はなかったが、長期的な運動復帰は30.4%(4頭/13頭)で、他の菌種での長期的な運動復帰73.9%(17頭/23頭)よりも悪かった(P<0.015)。

 

結論と潜在的臨床関連性

 化膿性滑液嚢罹患馬で、細菌培養陽性の馬は、陰性の馬と比較して退院までの短期生存および長期的な運動復帰の予後は悪かった。S. aureusが培養された症例では、長期的な予後はより悪かった。