育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

手根管腱鞘の腫脹を伴う馬121頭の筋骨格損傷と跛行(Jorgensenら2015)

手根管腱鞘の腫脹は、育成馬ではまれな疾患ですが、より年齢の高い乗馬ではより多くみられるのかもしれません。

中~高齢馬の手根管腱鞘炎は跛行を伴うことが多く、浅屈腱や浅屈腱支持靱帯が損傷していることが多く、これは超音波検査で診断できることが報告されています。

しかしながら、前腕中位から手根にかけての浅屈腱や深屈腱、およびその支持靱帯は、筋肉組織から腱組織への移行部であり、超音波画像の評価が難しいです。筋肉は水分の多い筋腹が低エコーに見えますが、筋繊維や膜構造は高エコーに見えるため、正常でもまだらなエコー像に見えるからです。しかし、この部位で損傷が起きやすく、特徴的な高エコー像が見られることが明らかにされました。

この部位の診断はエコー輝度の増加を異常と判断できるかがカギになりそうですが、対側肢と同じ高さで比較することが診断の助けとなります。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

馬の手根管腱鞘の腫脹には複数の原因がある。この回顧的調査の目的は、臨床的に手根管腱鞘の腫脹を伴い筋骨格損傷による跛行の所見率を記述することである。121頭が条件に合致した。来院時、74%(89頭/121頭)が跛行していた。年齢別では、若齢(9歳未満)の馬では44%が跛行していたが、中間齢(9-18歳)の馬では80%、老齢(18歳以上)の馬で85%が跛行していた。93%(113頭/121頭)の馬で骨または軟部組織の異常が認められた。内訳は、骨の異常所見が10頭、軟部組織の損傷が111頭であった。軟部組織損傷のうち84%(93頭/111頭)では、前腕部遠位尾側から中手掌側までにおよんでいた。浅屈腱(98頭/111頭;88%)および浅屈腱支持靱帯(64頭/111頭;58%)が最も多くみられた損傷で、両方の損傷は41頭(37%)でみられた。前腕遠位尾側の損傷は、浅屈腱の筋腱接合部(66頭)、浅屈腱支持靱帯(64頭)、深屈筋(21頭)でみられ、単独または複数におよんでいた。浅屈腱の筋腱接合部内側のエコー輝度増加は40頭で認められ、これは年齢と有意な関連があり、中間齢が19頭、高齢が18頭であった。本調査の結果から、手根管腱鞘の腫脹がみられる馬では年齢を考慮にいれ、前腕遠位尾側の複数の隣接した構造を評価すべきである。