育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

深屈腱橈骨頭の損傷に関連する手根管腱鞘炎11頭(Minshallら2012)

深指屈筋腱は、前肢後面を走行する筋肉で、蹄骨屈筋面に終止します。一方で起始部は3点に分かれており、上腕骨内側上顆から起始する上腕頭、尺骨肘頭から起始する尺骨頭、橈骨中部後内側から起始する橈骨頭があります。

橈骨中部後内側から起始する橈骨頭は、手根管腱鞘内で深屈腱に合流します。この部位が損傷することが腱鞘内視鏡検査により明らかとなり、超音波所見も報告されています。

 

 

 

過去の文献によると、前腕後面からの超音波検査によって、深屈腱橈骨頭は副手根骨より5㎝近位の部位から橈骨に沿うように観察され、遠位へ辿ると深屈腱に合流します。(非常に薄い構造でわかりにくいです。)*1

この構造が傷害された場合、前腕後内側からの超音波検査で観察することで、腱鞘液の増加と、そのなかに浮遊する橈骨頭の断端組織が確認できることが報告されました。

また、腱鞘鏡視下での損傷部除去手術が行われ、運動復帰が可能で、サラブレッドは10頭全て術後に出走したことが報告されています。

 

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由

 深屈腱の橈骨頭損傷についてこれまで記録されていない。

 

目的

 深屈腱橈骨頭の損傷に関連する症状、臨床検査、超音波、腱鞘鏡における所見を記述すること。治療成績を報告すること。

 

仮説

 深屈腱橈骨頭の損傷は、跛行と手根管腱鞘の腫脹を引きおこす。腱鞘内に突出した断裂組織を除去することで、臨床症状を解消し、機能を回復することができる。

 

方法

 深屈腱橈骨頭の損傷と診断した馬の医療記録と画像診断を回顧的に調査し、追跡調査の情報を得た。

 

結果

 11頭の症例が含まれた。臨床、超音波検査および腱鞘鏡では共通した所見が記録された。すべての症例は術後にもとの運動レベルに復帰した。

 

結論

 深屈腱橈骨頭の損傷は、一貫した診断における特徴をもった臨床疾患である。腱鞘鏡により断裂した組織を除去することは良い成績と関連した。

 

潜在的関連性

 手根管腱鞘の腫脹を伴う馬では、跛行診断の鑑別診断として深屈腱橈骨頭の損傷を加えるべきだ。腱鞘鏡による手術が推奨される。