育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

近位種子骨軸側辺縁骨髄炎の7例(Winsterら1991年)

 

はじめに

近位種子骨は球節掌側に位置し、内と外に一つずつあり、近位には繫靱帯脚部、遠位には4つの種子骨靱帯が付着しています。

内と外の種子骨をつなぐ構造として、種子骨間靱帯があります。この靱帯と種子骨付着部に強い負荷や継続的な負荷がかかることで、非感染性の靱帯炎および種子骨軸側骨炎が発生すると考えられています。また、球節や指屈腱鞘に感染が起きた場合、これが種子骨や靱帯の炎症を続発することもあります。

 

文献で分かったこと

慢性的な球節を原因とする跛行のうち、X線検査で近位種子骨軸側に透過像を認めた症例について、回顧的調査が行われました。

この報告では、X線検査において種子骨軸側の骨融解はシスト状~びまん性にみられ、オートプシーでCT検査を行ったところ、よりX線画像でみるより大きな病変が明らかとなりました。球節や指屈腱鞘への感染が関連している症例が半数含まれていました。

臨床症状のなかった、X線検査で病変が明らかでなかった馬を対照としてCT検査を行ったところ、種子骨軸側に所見がみられました。

 

診断のために

X線検査において、近位種子骨軸側は球節正面の画像で判断します。しかし、第三中手または中足骨が必ず重なる部位であり、画像診断の画質が向上しても、判断が難しいです。この部位の損傷は、種子骨間靱帯の損傷も関連していることが多く、MRI検査による評価が最も適しているかもしれません。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

7頭の跛行している成馬の8つの球節において、X線検査で近位種子骨軸側領域の破壊的な病変が同定された。検査時の跛行のグレードは5段階で2~5(平均4)で、10日から2年間(平均5.6ヵ月)持続していた。X線検査を行ったところ、破壊的な病変は両側の近位種子骨にみられ、部位は軸側辺縁の尖端および体中央部が主体であった。病変の見た目は、シスト状のものからよりびまん性な辺縁の融解まであった。シンチグラフィ検査を行った5頭中4頭で、跛行の見られる肢の近位種子骨で顕著な放射性医薬品取り込みがみられた。4頭で死後にCT検査を行ったところ、種子骨の海綿骨内に破壊的および空洞性の病変が認められた。CT検査で検出された病変は、X線検査で評価したよりも大きかった。比較のため症状のない肢の球節を評価したところ、7頭中2頭でX線検査で検出できなかった空洞性の病変がCT検査で検出された。近位種子骨軸側領域における急性、亜急性、慢性または回帰性の骨髄炎所見はX線またはCT検査により10関節で検出され、異常と判断した。また、跛行していた肢では3頭で感染性屈腱鞘炎、2頭で感染性球節炎が関連していた。