育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

肩関節のわずかな骨軟骨病変の診断所見と関節鏡処置後の予後(Doyleら2000)

肩関節を原因とする跛行は、診断が難しいです。

 

 

はじめに

肩関節の骨病変や軟骨下骨の異常およびOCDは、若馬で跛行の原因となることが報告されています。しかし、臨床現場では、ごくわずかな所見しか得られず、X線検査単独で診断を下すことが難しいことが多くあります。肩関節は、関節内に投与することがそもそも難しいため、診断麻酔が必ずうまくいく保証もありません。海外では、シンチグラフィなども診断の参考になりますが、最終的には診断的関節鏡により病変を確定し、適切な治療または予後判断を行うことが重要です。

 

 

文献でわかったこと

馬術競技用の馬が対象で、年齢中央値は4.7歳でした。X線検査では、肩甲骨の関節窩におけるシストや骨硬化といった所見が主にみられ、関節鏡により肩甲骨関節窩の軟骨損傷やシスト、上腕骨頭の軟骨損傷および線維化が確認されました。シストや軟骨損傷部はデブライドメントが行われました。術後はヒアルロン酸の静脈内投与が最も多く行われました。

若齢馬では骨軟骨症(OCD)が疑われたのに対し、4歳以上の馬では外傷に関連した損傷が疑われました。しかし、どちらも馬術競技のような強度であれば、関節鏡手術後に復帰できる可能性があります。

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

目的

 肩関節のわずかな骨軟骨病変に起因する跛行を呈した馬の臨床、核シンチグラフィ、X線検査、関節鏡所見および治療成績を明らかにすること。

 

デザイン

 回顧的調査

 

動物

 15頭の馬

 

方法

 医療記録を回顧し、身体検査、核シンチグラフィ、X線検査、関節鏡所見および治療結果を記録した。

 

結果

 跛行の程度はG1-4であった。肩関節の屈曲や伸展に対する反応は様々であった。12頭は狭窄蹄で峻立した繋ぎだった。関節内麻酔により肩関節の跛行と確認されたのは10頭中9頭であった。核シンチグラフィでは6頭中4頭で異常所見がみられた。X線検査でみられた病変はわずかなもので、肩甲骨関節窩の骨硬化、巣状の融解、小さなシスト、上腕骨頭の輪郭の変化があった。関節鏡視下での所見は、関節窩軟骨の裂け目、シスト、上腕骨頭のシスト、上腕骨頭軟骨の線維化、軟骨片、上腕骨頭の変位のない骨折が確認された。治療後、12頭がもとのレベルのパフォーマンスに復帰した。軽運動であれば問題ないレベルが1頭、1頭は跛行が残り、1頭は慢性的な跛行のため安楽死となった。

 

結論と臨床的関連性

 本調査の結果から、肩関節のわずかな骨軟骨病変を診断するためには、身体検査、シンチグラフィ、X線検査を組み合わせることが必要であることが示唆された。関節鏡により診断が確定され、軟骨および軟骨下骨の病変を治療することができた。若齢から中年齢の馬において、肩関節のわずかな骨軟骨病変に対する関節鏡治療後の運動復帰の予後は良好であった。