育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

調教中の若いサラブレッドの関節損傷リスクは運動に影響される(Reedら2013)

英国の競走馬における調査では、ある程度の頻度でキャンター調教を行えている馬は腕節や球節の損傷リスクが低くなる一方で、高速調教の距離が増えると画像診断で明らかな骨折や関節損傷を示す像が得られるリスクが増加するようです。

とはいえ、トレーナーごとにばらつきが大きいことも明らかとなっています。

一頭ごとに適した運動メニューを設定することが最も重要です。

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

本研究の目的は、平地競走の若いサラブレッドにおける腕節や球節損傷の発生運動に関連したリスク因子を同定することである。2年間の前向き研究において、毎日の運動や関節損傷のデータを、英国の13の調教場から集めた。症例は4つのカテゴリーに分類した。①臨床検査または診断麻酔で腕節または球節の疼痛があったが画像診断を行わなかった馬、②臨床検査および診断麻酔で腕節または球節の疼痛があり、X線画像診断を行ったが異常所見が得られなかった馬、③画像診断において軟骨下骨および関節辺縁に異常所見がみられた馬、④画像診断で関節表面の不連続性がみられた馬であった。多変量コックス回帰解析を行い、損傷発生、損傷タイプ(腕節または球節)およびカテゴリベルのリスク因子を調べた。キャンターおよび高速走行した距離を異なる時間で行ったものは、時間による連続変数とモデリングした。647頭が7785ヵ月のリスク期間を過ごし、184件の損傷が記録された。毎日のキャンターの距離が増えると、カテゴリー①と③の損傷リスクは減ったが、30日間のキャンターの距離が増えると、カテゴリー④の損傷リスクは増加した。1週間に高速調教を多く行うとカテゴリー①の損傷リスクが増加した。球節損傷のリスクは毎日のキャンターの距離が増えると減少したが、調教開始からのキャンターおよび高速調教の距離が増えていくと増加した。一方で、キャンターまたは高速調教の距離が増えていくことは、腕節損傷のリスク軽減にわずかに関連していた。すべての損傷タイプのリスクは調教師間で有意にばらつきがあった。本研究の結果は、通常のキャンター調教は一般的に関節の健康によいが、高速調教の距離が増えていくことは球節に負の影響があることが示唆された。