育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬の脛骨外果骨折16頭(Wright1992)

脛骨外果骨折について連続して取り上げます。

lateral fracture

脛骨外顆骨折

この骨折は、飛節の外側を構成する脛骨の外果に発生します。外傷に関連して発生することが多く、転倒や転落などのアクシデントはこの疾患を疑う上でのキーとなる稟告です。育成期には、凍った地面での転倒や、ウォーキングマシーン内で暴れた後などに発生するケースがあります。

飛節の外側には、側副靭帯が付着していて、これが関節の安定性を保っています。転倒などの外的な要因でこの関節に大きな力が加わることにより、靭帯が損傷し、さらに付着する脛骨外果に骨折が発生します。

collateral ligament

外側側副靭帯



 

 

診断はX線検査に基づいて行います。たいていは正面(背底像)もしくは少し角度をつけて背内-底外側方向から撮影することで骨片が検出できます。骨折の原因が外傷性であるという性質上、必ずしも単純な骨折であるとは限らず、骨片が複数に粉砕されていることがあります。X線のみで診断が難しい場合はエコー検査を行うことで骨片の離断を確認することも可能です。また、エコーでは靭帯炎や付着部炎の有無も評価することができます。

ultrasound exam

側副靭帯のエコー検査

以前は関節切開による骨片摘出が行われていましたが、近年では関節鏡による骨片除去も行われるようになっています。また、骨片が大きい場合には螺子固定が検討されることもあるほか、側副靭帯は関節安定化に大きく寄与するため、保存療法で骨折の癒合を期待することも十分妥当な選択肢となります。

 

調査でわかったこと

ほとんどの症例では骨折と関連する外傷の発生が確認されていました。X線検査では全頭で背底側像により骨折が検出できました。確認された骨折は、単純骨折が9、骨片の粉砕が9でした。運動プログラムを再開できるようになるまで6ヵ月かけており、長期の追跡調査ではほとんどの馬が跛行なく術前と同水準の運動が可能になりました。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

脛骨外果骨折を発症した馬16頭の臨床的特徴およびX線画像の特徴を報告する。本調査では、用いた外科的手技、得られた結果をもとに、除去手術の正当性を考察する。骨折は14頭が片側、2頭が両側に発生した。左右の偏りはなかった。14頭で明らかな外傷の発生が認識されていた。全ての症例で下腿足根関節の腫脹がみられ、10頭で外側側副靭帯の肥厚が触診できた。10頭で捻髪音が聴取された。X線検査では、全ての骨折が背底方向で、14/18は背内底外方向の斜位像で検出できた。骨折形状は、単純が9、粉砕が9であった。全ての骨折は下腿足根関節を切開して除去した。14関節は背外側アプローチ、3関節は底外側アプローチ、1関節は背外および底外側アプローチで行った。術後6ヵ月で徐々に運動プログラムを始めた。術後17-62ヵ月で15頭に跛行はなく、13頭は術前と同じ水準のパフォーマンスに復帰した。