育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

脛骨外果骨折の関節鏡による骨片除去:13頭の回顧的調査(O'Neillら2010)

脛骨外果骨折について連続して取り上げます。

この骨折は、飛節の外側を構成する脛骨の外果に発生します。外傷に関連して発生することが多く、転倒や転落などのアクシデントはこの疾患を疑う上でのキーとなる稟告です。育成期には、凍った地面での転倒や、ウォーキングマシーン内で暴れた後などに発生するケースがあります。

飛節の外側には、側副靭帯が付着していて、これが関節の安定性を保っています。転倒などの外的な要因でこの関節に大きな力が加わることにより、靭帯が損傷し、さらに付着する脛骨外果に骨折が発生します。

 

 

 

診断はX線検査に基づいて行います。たいていは正面(背底像)もしくは少し角度をつけて背内-底外側方向から撮影することで骨片が検出できます。骨折の原因が外傷性であるという性質上、必ずしも単純な骨折であるとは限らず、骨片が複数に粉砕されていることがあります。X線のみで診断が難しい場合はエコー検査を行うことで骨片の離断を確認することもかのうです。また、エコーでは靭帯炎や付着部炎の有無も評価することができます。

 

 

以前は関節切開による骨片摘出が行われていましたが、近年では関節鏡による骨片除去も行われるようになっています。また、骨片が大きい場合には螺子固定が検討されることもあるほか、側副靭帯は関節安定化に大きく寄与するため、保存療法で骨折の癒合を期待することも十分妥当な選択肢となります。

 

 

調査でわかったこと

関節鏡にて摘出可能であった脛骨外果骨折の症例は、サラブレッド競走馬を12頭含んでおり、9頭は障害、3頭は平地競走馬でした。10頭が競走復帰し、手術から復帰までに要した期間は中央値8ヵ月であり、競走復帰の予後は良好でした。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

馬における脛骨外果骨折治療に関する情報は限られており、この骨折を関節鏡視下で除去した症例の成績を報告したものはこれまでにない。本報告では、10年間(1999-2009年)にひとつの民間の馬二次診療施設に来院し、脛骨外果骨折を関節鏡視下で除去した13頭について回顧的調査を行い、所見を評価する。医療記録を回顧し、症例の経過、骨折の病因および患肢、診断の結果および手術記録を記録した。サラブレッド競走馬においては、オンラインデータベースから術後のパフォーマンスに関する情報を集めた。サラブレッドでない症例や術後競走に向かわなかった症例では、パフォーマンスに復帰したかについて、馬主や調教師に連絡をとった。症例は13頭で、うち12頭がサラブレッドで、9頭がナショナルハントの競走馬、3頭が平地競走馬であった。残りの1頭は一般的な乗馬であった。全ての症例は急性で片側の骨折であった。13頭中11頭は術後6ヵ月以上の追跡調査を行い、全て跛行はみられなかった。12頭の競走馬で、10頭は競走復帰し、総出走回数は104回(中央値5回)であった。手術から出走までの期間は180-366日で、中央値241日であった。脛骨外果骨折を発症した馬は、関節鏡によるデブリードメント後には非常に良好な運動復帰の予後が得られ、関節鏡による骨片除去は脛骨外果骨折の適切な治療方法であると結論づけられる。