育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

下腿足根関節の軟部組織損傷:関節鏡所見の回顧的調査30頭(Barkerら2013)

飛節を原因とする跛行に関連する骨疾患は、診断の難しい足根骨の骨折や、脛骨外果または内果の骨折といった病変が挙げられます。しかし、骨の損傷だけではなく、関節内の軟部組織損傷でも跛行することが報告されています。

 

equine-reports.work

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調査で分かったこと

関節鏡手術を行った症例を調査した結果、飛節の関節内病変は骨や軟骨の損傷だけには限らないということが明らかになっています。

その内訳は関節包、側副靱帯、関節ヒダなどで、どれも関節鏡による病変の検出が不可欠なものでした。これらは関節鏡手術を行った症例の11%に相当していました。手術によるデブリードメントとリハビリを経て、81%がもとの運動に復帰できたことが報告されています。

関節内麻酔などで飛節を原因とする跛行が特定されたとき、X線検査で骨の病変が認められなくても、関節内の軟部組織損傷が原因となっている可能性を考慮する必要があるかもしれません。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由

 馬の下腿足根関節内における軟部組織損傷について精査されていない。

 

方法

 10年間で下腿足根関節の関節鏡手術を受けたすべての馬を同定した。関節内の軟部組織損傷が原発である症例を組み入れ、それぞれの症例を回顧的に調査した。

 

結果

 調査期間で281頭の馬が下腿足根関節の関節鏡手術を受けていた。このうち30頭(30関節)が組み入れ基準に合致した。軟部組織の病変は単一の構造よりも複数の組み合わせが多かった。損傷がみられた内訳は、関節包25、側副靭帯20、背側関節ヒダ(plica)8、下腿足根関節と伸筋腱束の交通7であった。関節鏡手術とリハビリテーションを経て、81%がもとの運動に復帰した。

 

結論

 下腿足根関節内の軟部組織損傷は、炎症の臨床症状の局所と関連している。この調査の集団では、1か所の二次診療施設での調査で、関節鏡手術を行ったうち11%に相当した。関節鏡手術により損傷を正確に定義することができ、病変の処置をすることができる。関節鏡視下でのデブリードメントとその後のリハビリ期間を経た後の症例の成績は良好である。

 

潜在的関連性

 下腿足根関節に局在する臨床症状があり跛行している馬では、鑑別診断のリストに関節内軟部組織の損傷を考慮すべきである。関節内の軟部組織損傷が原発の跛行を疑う症例には関節鏡による評価を検討すべきである。