育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

飛節のオカルト軟骨下骨シスト状病変(Garcia-Lopezら2004)

 

文献でわかったこと

飛節を構成する骨には、感染に関連してシスト状病変が形成されることがごくまれにあります。この病変はルーティンなX線検査では検出することができず、そのため表題の通り「オカルト」と表現されているようですが、シンチグラフィ検査では異常な集積が認められるほか、CT検査を行うことでシスト状病変が検出できます。

症例報告では、脛骨内果および距骨の滑車間溝が最も多いとされ、脛骨外果や中間稜にも形成されることがあるようです。多くの症例は外傷歴とそれに関連した感染があるか、もしくはステロイドの関節内投与を受けていました。

主に感染に関連して骨内に異常な炎症がおき、それにより骨融解とシスト形成が発生するという病態が考えられています。外科的にシスト状病変を掻爬することで、4頭/6頭が運動復帰できた一方で、保存療法(運動制限とフェニルブタゾン投与)では跛行の消失は得られなかったものの、軽い運動には復帰できたと報告されています。

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

要約

 下腿足根関節のオカルト軟骨下骨シスト状病変がある馬の、臨床症状、診断、治療および成績について記録すること。

 

デザイン

 回顧的研究

 

動物

 下腿足根関節に軟骨下骨シスト状病変を認めた12頭の馬

 

方法

 医療記録から、経過、検査所見、診断方法および手術手技についての情報を得た。再検査およびかかりつけ獣医もしくは馬主または調教師への電話聞き取りで成績を明らかにした。

 

結果

 馬の年齢は3-29歳であった。跛行の程度は中程度から重度で、期間は2週間から1年であった。9頭で関節液を採取し、感染による炎症性変化がみられ、細菌培養陽性は4頭であった。9頭中8頭は、関節内麻酔によって跛行が劇的に改善した。10頭は飛節のX線検査で異常を認めなかった。シンチグラフィ検査では、全ての馬で脛骨遠位または距骨に局所的な放射性医薬品の取り込み増加がみられた。さらに7頭はCT検査において病変の特徴が明らかとなった。軟骨下骨シスト状病変の部位は、脛骨内果5、距骨滑車間溝4、脛骨外果2、脛骨中間稜1であった。1頭は安楽死、6頭は外科的なデブリードメント、5頭は保存療法が行われた。外科的治療を行ったうち4頭(67%)は跛行なく復帰した。保存療法を行った馬は跛行が持続したものの、2頭は軽く乗る分には十分な歩様であった。

 

結論

 X線検査で検出できない飛節のオカルト病変は、CTやシンチグラフィ検査で検出できて、跛行の原因になり得る。

 

臨床的関連性

 軟骨下骨シスト状病変は感染に起因する可能性があり、飛節を原因とする跛行でX線検査で異常がみられない場合に鑑別診断に入れるべきである。病変を外科的にデブリードメントすることは、跛行なく運動復帰するために最も良い予後が得られる可能性がある。