育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

蹄骨伸筋突起の関節鏡視下掻爬術の長期成績13症例(Croweら2010)

蹄骨伸筋突起の骨折は、外傷(外力)または過伸展が原因と考えられますが、急性期に気づかれることは少ないとされています。特に成長期に発生した骨折は、症状が軽度なため気づかれにくく、慢性の病態として蹄冠部の腫脹や蹄角質の異常がみられ、X線検査で発見されることがあります。

蹄骨の伸筋突起は肢端を伸ばす筋肉である総指伸筋の腱が付着する部分です。したがって、常に牽引される力を受けていて、保存療法では十分な癒合が達成されず、慢性的な関節炎へと移行すると考えられています。このような場合には外科的に切除することが検討されます。一般的な乗馬としての予後は、小さい骨片であれば予後は非常に良く、大きくても予後は良いとされています。そして、慢性的な関節炎による跛行に至る前に骨片を摘出することでさらに良い予後が得られると考えられます。一方で、急性発症の大きな伸筋突起骨折については診断されることは稀ですが、この場合は螺子固定による機能回復を試みることができます。

 

 

 

調査でわかったこと

伸筋突起骨折による慢性的な跛行に対して関節鏡視下で骨片を除去した症例についての長期的な予後を検証した調査が行われました。

この調査では1年間に手術を行い、その後4年間の長期予後を調査できた症例13頭を対象としました。短期的には11頭(85%)の跛行が消失したものの、1年後には2頭が跛行を再発しており、4年後に完全な運動ができていた症例は6頭(46%)でした。

この調査の結果から、この手術により短期的な運動復帰の予後は良好ですが、長期的に跛行なく過ごせるかという点は注意が必要であると述べています。そして、この疾患はなるべく早く摘出術を行うべきであると結ばれています。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

目的

 馬における蹄骨伸筋突起骨片の関節鏡視下除去手術とその後の長期成績を報告すること。

 

研究デザイン

 症例研究

 

動物

 成馬13頭

 

方法

 2003-2004年の期間で、蹄骨伸筋突起の骨片デブリードメント手術を行った馬の医療記録を回顧した。蹄を原因とする跛行であり、関節鏡により骨片を除去した、追跡期間が4年以上の症例を組み入れた。

 

結果

 13頭のうち、11頭(85%)では初めは跛行が解消したが、術後1年間の追跡期間で2頭(15%)で跛行が再発した。追跡期間中に他の部位を原因とする跛行により3頭(23%)が引退した。結果的に、4年後に跛行がなく完全な運動復帰ができた症例は46%(6頭/13頭)であった。7頭は対側肢の関節にも明らかな変化がみられたが、骨片は片側にのみみられた。

 

結論

 前肢の蹄骨伸筋突起の骨片を関節鏡視下でデブリードメントすることで、短期間の跛行解消と運動復帰への予後は良好であった。しかし、長期的に問題ないという予後は注意が必要である。

 

臨床的関連性

 本調査の結果は、術前の予後予測を正確にでき、蹄骨伸筋突起の骨片を早期に摘出することを支持するものである。