調査で分かったこと
このチームの調査では、過去に関節腫脹のあるOCD症例馬において、病理組織学的に滑膜炎を示す滑膜細胞増殖および炎症細胞浸潤があること、およびそのスコアリングが評価に有用であることが示されています。
病理組織学的評価には滑膜バイオプシーが必要ですが、これを定期的に採集することは臨床例では困難です。そのため、滑膜炎の評価をバイオマーカーで代用することが検討されています。
これまでに関節炎のバイオマーカーとしてヒトや獣医領域で主に用いられているものとしてCOMP(カーテリッジオリゴメトリックマトリックスプロテイン)があります。
この調査では、COMPに加えて、細胞外基質のひとつであるフィブロモジュリンをバイオマーカーとして検討しています。
OCD罹患馬の関節鏡手術前後とコントロールの関節液および滑膜を採取し、バイオマーカー濃度と滑膜病理所見および臨床所見の関連を調査しました。結果として、関節液増量や滑膜増殖と相関があったのはフィブロモジュリン濃度で、バイオマーカーとなる可能性が示唆されています。
参考文献
目的
脛骨中間稜のOCDがある馬の下腿足根関節液におけるCOMPおよびフィブロモジュリンの濃度を定量し、関節鏡による骨片除去後に濃度が変化するか明らかにすること。
動物
115頭のOCD症例と、関係ない理由で安楽死となった29頭のコントロール
方法
OCD症例馬の下腿足根関節について、関節鏡手術前後の関節液を採取し、コントロールの馬からは安楽死後に下腿足根関節から関節液を採取した。炎症所見の確認のため、症例とコントロールの下腿足根関節から得た滑膜について生検し組織学的評価を行った。
結果
術前のOCD症例の関節液とコントロールの関節液において、COMPとフィブロモジュリンの濃度に有意差はなかった。COMPではなくフィブロモジュリンは、術前と比較して術後に濃度が低下していた。フィブロモジュリン濃度は、関節液増量のスコアと有意な相関があり、跛行のスコアや屈曲試験の結果とは相関がなく、滑膜表面の滑膜細胞数のスコアとは相関があったが、滑膜への炎症細胞浸潤のスコアとは相関がなかった。COMPの関節液濃度は臨床所見や組織学的所見とは有意な相関がなかった。
結論と臨床的関連性
本研究の結果から、COMPではなくフィブロモジュリンが、下腿足根関節のOCD症例における関節内の炎症バイオマーカーになる可能性がある。