育成馬臨床医のメモ帳

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大腿膝蓋関節OCD診断におけるX線と超音波検査の比較

大腿骨滑車稜のOCD

膝関節でOCDの発生が最も多い部位は内側または外側の滑車稜です。X線検査でみえる病変の大きさや範囲、骨片の数などは様々です。関節炎の原因となることがあるほか、跛行を呈すこともあり、なかにはパフォーマンスに影響する場合もあります。

 

repository

軽種馬におけるレポジトリーのためのX線検査ガイド(47ページ)

 

 

調査で分かったこと

大腿骨のOCDは、内外側の滑車によく発生しますが、軟骨病変のみもしくは滑車間溝に病変があるときにはX線検査単独では診断が難しくなります。

特に内側滑車の病変は超音波検査のほうが診断感度が高いことが明らかにされています。したがって、大腿膝蓋関節の腫脹があり、OCDが疑われる症例において、X線検査で明らかな病変がなかった場合には、超音波検査を組み合わせて診断することが有用と考えられます。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由

 大腿膝蓋関節のOCDは通常、X線検査で診断される。しかし滑車間溝に病変がある場合や軟骨下骨の変化を伴わない場合は見つけることが難しい。超音波検査は大腿膝蓋関節の関節軟骨や軟骨下骨の評価が可能である。

 

目的

 馬の大腿膝蓋関節におけるOCD病変のX線および超音波検査所見を記録し、超音波検査による病変のグレード分類を行い病変診断の正確さを比較すること。

 

方法

 1995-2006年の期間に、大腿膝蓋関節のOCDと診断したすべての症例の医療記録を評価した。組み入れ基準はX線と超音波検査のどちらも入手できることであった。病変の特徴は、内外の滑車稜および滑車間溝について評価した。OCD診断における各検査の正確性(感度と特異度)を評価するため、関節鏡や剖検を行った症例に限定した。

 

結果

 22頭を組み入れた。OCD病変は、X線検査で30/32関節、超音波検査で32/32関節で診断できた。X線検査では、外側滑車が91%、内側滑車が17%であった。超音波検査における病変は外側滑車97%、内側滑車25%であった。1つの病変を除き全てX線検査と超音波検査で検出できた。外側滑車の病変2つと内側滑車の病変3つは超音波検査のみで診断でき、これらは関節鏡または剖検で病変が確定できた。内側滑車の遠位1/3(超音波検査で特異度94%)を除き、病変の部位や診断装置によらず特異度は100%であった。診断感度は病変の部位によりばらつきがあった。

 

結論

 超音波検査は大腿膝蓋関節のOCD診断に価値のあるツールで、大腿骨内側滑車の病変診断にはX線検査より超音波検査のほうが診断感度が高かった。

 

臨床的関連性

 大腿膝蓋関節のOCD診断にはX線検査と組み合わせて超音波検査を行うことは有用で、特に臨床的に強く疑われているがX線検査で所見が得られないときに考慮すべきである。即時に画像が得られるDRがないときにはその場で診断できる超音波検査が有用である。

 

 

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