育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

橈骨近位内側の軟骨下骨透過領域に対するスクリューによる治療8例(Roquetら2017)

はじめに

軟骨下骨嚢胞は大腿骨内側顆に比較的よくみられ、レポジトリ検査では膝関節において多く見られる所見です。

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軽種馬におけるレポジトリーのためのX線検査ガイド

 

 

 

軟骨下骨嚢胞は橈骨近位にも発生することがあり、肘関節を原因とする跛行の原因となります。馬における橈骨近位の軟骨下骨嚢胞はどの年齢や血統の馬でもみられ、内側に多く発生します。また、肘関節においては上腕骨遠位内側の関節面にも発生することが知られています。

軟骨下骨嚢胞に対する外科的な治療法としては、嚢胞の掻爬や、嚢胞を貫くスクリュー固定があります。今回は橈骨近位関節面に発生した骨嚢胞に対してスクリュー固定を行った症例の成績を報告した文献を紹介します。

 

調査で分かったこと

肘関節を原因とする跛行のうち、X線検査で橈骨近位内側に軟骨下骨嚢胞を認めた症例を対象とした。すべてに透過領域を貫通するように4.5mm皮質骨スクリューを挿入した。術後は舎飼い(1-2ヵ月)と放牧(1-2ヵ月)を行った後、徐々に運動を開始した。7頭/8頭で跛行が軽減または消失し、6ヵ月以内に意図した用途の運動にもどることができた。保存療法が奏功しない場合や、早期に運動復帰したい場合には螺子が有効である可能性がある。

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

目的

 橈骨近位の軟骨下骨透過領域に対してスクリューを設置した8頭の馬の成績を記述すること。

 

研究デザイン

 回顧的臨床研究

動物

 肘の軟骨下骨透過領域に起因する跛行を呈した馬8頭

方法

 医療記録の回顧的調査と臨床的な追跡調査

成績

 橈骨近位の透過領域を原因とする跛行を呈した馬8頭に対して、透過領域を貫くようにスクリューを設置した。症例の年齢は1-20歳であった。8頭中4頭は間欠的に重度な跛行で常歩で明らかであった。5頭で肘の関節内麻酔で確定し、8頭すべてでX線検査により透過領域を同定した。すべての馬に対して4.5mmの皮質骨スクリューを用いて、透視装置またはX線下で、内側から外側に病変を貫くようにスクリューを設置(ラグスクリュー6頭、ニュートラル2頭)した。術後は舎飼いと引き運動を30-60日間行い、その後の30-60日は放牧地に放した。X線検査における軟骨下骨透過領域の治癒(サイズの縮小)は術後3-4ヵ月で全頭に認められ、7頭/8頭(87.5%)は6か月以内に意図した用途に使えた(4頭は競技、3頭は放牧)。1頭は馬場馬で初めは歩様が改善したものの、のちに跛行した。

結論

 橈骨近位内側の軟骨下骨透過領域を貫くスクリューを設置することは、肘関節に関連する跛行を軽減または解消するために効果的であった(7頭/8頭:88%)。橈骨近位に対するスクリュー挿入は軟骨下骨透過領域による跛行を呈する馬で、早期に運動復帰したいとき、または保存療法が奏功しない症例に対して考慮すべきである。

 

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