育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

競走馬におけるP1掌側または底側面の骨軟骨片(Whittonら1994)

第一指(趾)骨の掌側(底側)骨片

第一指(趾)骨の掌側(底側)に発生する骨軟骨片は、靱帯付着部に発生します。球節に大きな捻転負荷がかかることで、靱帯が付着している部分がちぎれてしまう捻除骨折と考えられています。

この骨折は、関節や骨が未熟な若い馬で見られることが多いことが知られています。レポジトリー検査においても、特に後肢でよく見られますが、関節の安定性が保たれている場合には跛行の原因となることはほとんどなく、パフォーマンスに影響しません。

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軽種馬におけるレポジトリーのためのX線検査ガイド

 

 

 

競走馬における第一指(趾)骨の掌側(底側)骨片

骨格が成熟した競走馬で発生した場合には、この骨折は跛行の原因となります。比較的程度の軽い跛行を示しますが、骨折局所の腫脹や球節の腫脹がみられます。

競走に求められる運動負荷が関係しているのか、スタンダードブレッド競走馬での発生が特に多いことが知られていて、サラブレッド競走馬での発生は多くありません。

シドニー大学から発表された症例の回顧的調査では、やはりスタンダードブレッド競走馬が多く、跛行は軽微ですが屈曲試験には反応するという特徴がありました。関節鏡手術が多く選択され、21頭中16頭が競走に復帰できたと報告されています。骨折の発生部位にもよりますが、関節鏡手術で除去可能であれば予後は良好であることが示されています。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

要約

P1掌側または底側の骨軟骨片がみられた26症例の臨床症状と治療成績を提示する。23頭はスタンダードブレッド、3頭はサラブレッドの競走馬であった。最も多くみられた主訴は、高速走行時に直線的に走れないということであった。跛行が主訴であった症例は8頭のみであったが、来院時の検査では19頭が跛行していた。球節屈曲試験では90%で陽性、球節の関節液増量は48%でみられた。21頭の23ヵ所から関節鏡手術で骨片を除去し、1頭は関節切開により除去した。16頭が競走復帰でき、うち12頭はパフォーマンスが改善、3頭はパフォーマンスが変わらず、1頭は他の理由により引退した。3頭は術後に骨片が再び発生し、うち2頭は最初の関節鏡手術により改善した。手術時点で球節の退行性変化が8頭でみられた。保存療法を選択した4頭のうち、1頭は関節内治療を行い一時的に元のレベルのパフォーマンスに復帰した。1頭は改善がみられず、2頭は現在も休養中である。競走馬において、P1掌側または底側の骨軟骨片はよく見られる低グレードの跛行の原因である。関節鏡手術による骨片除去により、高い割合の症例でパフォーマンスが改善された。