育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

前肢球節における滑膜パッドの線維性増殖63症例(Dabareinerら1996年)

球節背側の滑液嚢

若い馬にみられる球節背側の滑膜パッド内の骨軟骨片は、偶発的な所見であることが多く、関節内の異常所見がみられないことがほとんどです。

一方で、高齢の馬で見られる滑膜パッド内の骨片は少ないものの、跛行と関連していて、関節内の疾患とも関連していました。

 

equine-reports.work

 

 

 

慢性的な関節炎の結果として形成される滑膜パッド内の骨片は跛行の原因となりうることがわかっています。慢性的な関節炎をコントロールするためには、さまざまな薬剤や血液製剤を用いた関節内投与が試みられています。しかし関節炎が改善しない場合には、この骨片を摘出するために関節鏡手術を行うことは有効な方法です。さらにそれと併用して、運動や調教内容を変更する必要があります。掌側の骨融解を伴う症例ではさらに予後がよくないとされています。

 

競走馬を主とした前肢球節の滑膜パッド増生についての回顧的調査では、対照となった63頭中55頭で関節鏡手術が行われました。手術では主にMC3背側の増生した滑膜および骨軟骨のデブリード、P1の骨片がある場合は骨片摘出が選択されました。追跡調査が可能だった関節鏡手術の症例50頭のうち43頭が競走復帰し、34頭は術前と同等以上のレベルで競走することができました。このことから競走復帰の予後は良好といえそうです。さらに、復帰した競走レベルが高かったのは年齢が若い馬であったことが示されています。

 

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

要約

前肢球節の滑膜パッド増生がみられた63頭について、医療記録、X線および超音波画像検査を回顧的に調査した。すべての馬で跛行と関節腫脹が片側または両側の球節にみられた。MC3遠位背側面で顆のすぐ近位に骨のリモデリングとへこみが71関節(93%)でみられ、P1背側面に骨片骨折が24関節(32%)で確認できた。超音波検査は54関節(71%)で行った。滑膜パッドの矢状方向の厚みは平均11.3±2.8mmであった。79%は片側の球節に症状があり、左右で偏りはなかった。55頭、68関節に対して関節鏡手術を行った。このうち60関節(88%)は、滑膜パッドの下のMC3背側から軟骨および骨軟骨をデブリードした。また、30関節(44%)はP1背内側または外側から骨片を摘出した。42関節では両側の滑膜パッドの一部または全部を切除した。21関節では内側の滑膜パッドのみ、5関節では外側のパッドのみ切除した。8頭、8関節は馬房内休養と関節内投与およびNSAIDs全身投与を行った。追跡調査は外科的治療をした50頭、内科的治療を行った8頭について行った。外科的治療を行ったうち43頭(86%)は競走復帰し、34頭(68%)は手術前と同等以上のレベルで競走した。内科的治療を行った3頭(38%)は競走復帰し、1頭は休養前より上のレベルで競走した。治療前より低いレベルの競走もしくは競走できなかった馬と比較すると、同等のパフォーマンスで競走できた馬は年齢が若かった。全体では、滑膜パッド増生がある馬に対して関節鏡手術を行った場合、同等以上のレベルで競走復帰できる予後はいい。