育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

サラブレッド競走馬の第三中手骨背側疲労骨折に対する螺子固定56頭の成績(Dallapら1999年)

第三中手骨背側には運動により骨が圧迫され、たわむような負荷がかかります。繰り返し負荷がかかることで骨の修復できる以上の障害が続くと骨膜炎が生じ、さらに繰り返しの負荷が継続するとやがて疲労骨折を起こしてしまいます。

特に育成期にはよくみられる疾患で、調教が順調にできない主な原因のひとつとなっています。局所の冷却や運動強度を落とした調教に変更することで治療が可能です。一方で疲労骨折に至ると、跛行を呈することが多く、調教を継続することが困難になることがあります。

このような骨折の性質から、治癒を早めることを期待して、螺子固定術および骨穿刺術が検討されてきました。

 

螺子固定術に関する調査

3歳、オス、第三中手骨背外側に疲労骨折が多いことがわかりました。症例に対して螺子固定と骨穿刺を併用して行い、中央値2.0ヵ月で螺子を抜去しました。このとき単純な疲労骨折のほとんどはX線検査で治癒が確認できていました。調教復帰まで中央値2.75ヵ月、競走復帰まで中央値7.62ヵ月でした。競走成績は手術前後で差はありませんでしたが、再発は2頭のみで、重大な骨折に進行する馬はいませんでした。

 

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

本調査の目的は、サラブレッド競走馬における第三中手骨背側の皮質骨疲労骨折に対する外科的な治療法としての皮質骨ドリリングと螺子固定を評価することである。医療記録から、年齢、性別、患肢、骨折の評価、術後の指示を調査し、X線画像を得た。骨折の治癒は螺子抜去時のX線画像で評価した。競走成績はジョッキークラブの情報を得た。56頭のサラブレッド競走馬が、第三中手骨背側の疲労骨折に対して、螺子固定と皮質骨のドリリングを受けた。疲労骨折の発生は第三中手骨中位の背外側、オス、3歳馬、左前肢に多くみられた。97%の骨折が、遠位背側から近位掌側方向に伸びていた。螺子抜去までの期間の中央値は2.0ヵ月であった。螺子抜去時のX線検査では、左前肢の単純な疲労骨折の98%で治癒していた。単純な疲労骨折における調教復帰までの期間中央値は2.75ヵ月で、競走復帰までの期間中央値は7.62ヵ月であった。手術前後で獲得賞金や出走回数に統計学的有意差はなかった。63の骨折に対して治療を行い、2つ再発した。致命的な損傷はなく、切開部の感染は見られなかった。

 

馬の骨折整復や診断、周術期管理について詳しく知りたい方におススメ