育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

サラブレッド競走馬の第三中手骨背側皮質骨折に対する外科的治療53例(Cervantesら1992)

第三中手骨背側には運動により骨が圧迫され、たわむような負荷がかかります。繰り返し負荷がかかることで骨の修復できる以上の障害が続くと骨膜炎が生じ、さらに繰り返しの負荷が継続するとやがて疲労骨折を起こしてしまいます。

特に育成期にはよくみられる疾患で、調教が順調にできない主な原因のひとつとなっています。局所の冷却や運動強度を落とした調教に変更することで治療が可能です。一方で疲労骨折に至ると、跛行を呈することが多く、調教を継続することが困難になることがあります。

このような骨折の性質から、治癒を早めることを期待して、螺子固定術および骨穿刺術が検討されてきました。

 

骨穿刺術に関する調査

骨折線を貫く、もしくは周囲の皮質骨に骨穿刺を行うことで骨の代謝を活発にさせ、治癒を促進する目的で骨穿刺術が行われていました。この方法は螺子固定よりも技術的に難しくない点および螺子よりも手術回数が少ないことがメリットとされています(*螺子固定は固定時と抜去時で2回手術が必要)。53頭のサラブレッド競走馬に対して第三中手骨の骨穿刺術を行い、89%は競走復帰しました。術前に出走していた馬の70%は同等もしくはそれ以上のクラスで出走しました。術後の再骨折および重篤な骨折の発症がみられ、術後の管理には改善すべき点があるようです。

 

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

要約

 1985年1月から1989年5月の期間で、53頭のサラブレッド競走馬(平均3.2歳)に対して、第三中手骨背側皮質骨骨折を外科的に治療した。すべての馬は、骨折線に沿って皮質骨のドリリング(骨穿刺術)を行った。骨折の診断はX線撮影によって確認した。47頭(89%)が術後に競走復帰した。手術後出走までの期間は平均6.8ヵ月であった。術前の出走回数は平均10.9回で、術後は平均16.1回であった。術前の1走あたり獲得賞金は平均6459ドル、術後の1走あたり獲得賞金は平均5685ドルであった。術後に出走した47頭のうち、70%は以前と同じかそれ以上のクラスで出走した。手術に関連した合併症は10頭で見られた。2頭は術後に同じ部位を骨折したが、再び骨穿刺術を行って出走した。4頭で破損したドリルビットが残ってしまった。このうち1頭は致命的な損傷を起こした。2頭は皮下の感染をおこし、2頭は手術した肢の第三中手骨に致命的な損傷をおこした。骨穿刺術は第三中手骨背側皮質の骨折を発症した馬を競走復帰させるために有効な治療法のようである。

 

馬の骨折整復や診断、周術期管理について詳しく知りたい方におススメ