特発性の関節内出血は、腕節もしくは飛節にみられ、調教後の急性跛行のまれな原因の一つであることが報告されています。原因が不明な特発性疾患で、関節の病理組織学的検査では慢性的な滑膜過形成、ヘモジデリン沈着、肉芽腫性炎症の所見がみられました。
ほとんどの馬で診断的関節鏡手術が行われ、その後は包帯と抗炎症薬の投与が行われ、中央値7ヵ月かけて、8頭中7頭がもとの運動に復帰することができました。しかし再発は3頭で認められました。
この疾患の病態に関しては、原因がわからず、病態も掴み切れてはいません。運動復帰率は高いものの、再発する可能性もあり、注意が必要です。
参考文献
要約
目的
特発性の関節内出血と診断した8症例の回顧をすること、繰り返し関節内出血する症例に対するイットリウム90およびメチルプレドニゾロンの関節内投与について記述すること。
デザイン
回顧的症例研究
方法
1998-2010年の期間で、特発性の関節内出血と診断したすべての馬の医療記録、画像診断、組織学的検査、成績を回顧した。
結果
橈骨手根関節の関節内出血を認めた4頭のサラブレッド競走馬は、強調教の後に重度の急性跛行(跛行は中央値G4)と顕著な関節液増量を認めた。他の4頭(サラブレッド競走馬2頭、スタンダードブレッド競走馬1頭、温血種1頭)は下腿足根関節の関節内出血で、軽度で間欠的な跛行(中央値G1)、顕著で持続的な関節腫脹を認めた。8頭中6頭は治療前に関節内出血を繰り返していた。X線検査およびシンチグラフィ検査では骨の病変は検出できなかった。診断的関節鏡を行った7症例では、全体的に肥大し退色した滑膜がみられた。滑膜の病理組織学的検査では、慢性的な滑膜過形成、重度のヘモジデリン沈着、様々な程度の肉芽腫性炎症が明らかとなった。すべての馬は休養、包帯、フェニルブタゾン投与が行われた。2頭は滑膜亜全摘、4頭はイットリウム90とメチルプレドニゾロンの関節内投与、1頭は両方の処置を行った。7頭はもとの運動に復帰し、復帰までの期間は中央値7ヵ月であった。3頭は関節内出血が再発し、うち2頭はイットリウム90とメチルプレドニゾロンを併用した症例であった。
結論
特発性の関節内出血は、急性で繰り返す関節の腫脹と跛行の鑑別診断の一つとして考すべきである。再発はよくあるが、イットリウム90とメチルプレドニゾロンの関節内投与を含む保存療法のプロトコルはさらなる評価が必要である。