育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬のプアパフォーマンス:整形外科以外の診断について(Ellisら2022) ①喘息Asthma

プアパフォーマンス

馬におけるプアパフォーマンスの原因は様々です。まず思いつく原因として、整形外科的な疾患では関節炎や腱鞘炎、疲労骨折など疼痛や機械的な障害を伴うものがあります。ですが、他にも様々な呼吸器、循環器、消化器および筋肉の疾患があります。

 

まずは慎重な症状の聞き取りと身体検査が重要となります。ここで示す症状が呼吸器症状か、循環器症状か、歩様異常か、消化器症状かを大別します。そこからさらに詳しく分類し、それぞれ診断するための検査に進みます。

 

 

 

呼吸器症状の場合

馬の喘息(Equine asthma syndrome)

喘息は気道内の炎症を主体とする疾患で、現在ではその炎症の程度により軽度のものが炎症性気道疾患(IAD)、中程度から重度のものが回帰性気道閉塞(RAO)と認識されています。

特徴的な症状は慢性的な発咳や鼻孔からの粘液排出、運動後の回復が遅いまたは運動不耐性です。

これらの病態の原因は、特定することが難しいですが、刺激となるものは、厩舎内の埃塵やカビなどのアレルゲンとなる刺激物を含む、さまざまなものが関わっています。これらをできる限り除去し、気道内の炎症を抑えることが重要となります。

診断には気管支肺胞洗浄または気管洗浄液の細胞診が欠かせず、通常ではみられない炎症細胞の増加が特徴です。特に好中球比の増加や好酸球および肥満細胞の増加は中程度から重度の症例でみられます。これらはヒスタミン分泌にも関わり、病態に深くかかわっています。

 

 

 

参考文献

馬の喘息

<症状>

馬の喘息は慢性的な呼吸器症状で、過剰な気管気管支内粘液と発咳を特徴とする。最近では回帰性気道閉塞症(RAO)および炎症性気道疾患(IAD)を含む単語として使われている。以前は無関係の疾患と考えられていたが、現在ではこれらは同じ病態であると認識されている。RAOは中程度から重度の、IADは軽度から中程度の喘息をさす。この病態は軽度のうちに気付かれず、治療されないと進行していくことがある。

 

馬の喘息は頻呼吸、鼻汁、発咳といった明らかな呼吸器症状を示すこともあるが、プアパフォーマンス、慢性発咳、運動後の回復が遅いなどのわずかな症状のときもある。中程度から重度の喘息では安静時の呼吸回数が多くなることが多いが、軽度の喘息では正常な呼吸回数である。サラブレッド競走馬では軽度の喘息がある馬の88%で発咳があったが、発咳を示したうちの85%が軽度の喘息であった。軽度喘息の馬のほとんどにおいて気管気管支の膿性粘液増加はみられるが、これは喘息に特異的な所見ではない。

 

 

<診断>

馬の喘息を確定診断するためには、気管支肺胞洗浄(BALF)または気管洗浄液(TW)の細胞診が必要である。軽度の病態ではBALFの所見は以下の3つのうち1つが当てはまる。①軽度の好中球、リンパ球、単球浸潤、②肥満細胞増加、③好酸球増加。中程度から重度の病態では、好中球の明らかな増加とリンパ球および単球の相対的な減少がみられる。近年の調査ではTWも有用であることが示され、鎮静なしで合併症が少なくすむためBALFより優れる。

 

気管内視鏡検査は追加の診断ツールとして有用である。粘液のスコアシステム(G0-5)が馬で確立されている。気管粘液の存在だけで確定診断はできないが、喘息の重症度分類には有用で、これは気管粘液スコアにはBALFの好中球とプアパフォーマンスとの間に正の相関があるからである。

 

プレチスモグラフィー(Plethysmography)は、肺の容積変化を測定する技術であり、これはヒスタミンなどの刺激物を吸入したときの反応を検出するために有用である。刺激に対して過剰に気道が狭くなることは、気道の過剰反応と呼ばれ、好酸球や肥満細胞が増加するIADの特徴のひとつである。