育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

球節滑膜パッド増生に対するレーザー摘出11症例(Murphyら2001)

球節背側の滑液嚢

若い馬にみられる球節背側の滑膜パッド内の骨軟骨片は、偶発的な所見であることが多く、関節内の異常所見がみられないことがほとんどです。

一方で、高齢の馬で見られる滑膜パッド内の骨片は少ないものの、跛行と関連していて、関節内の疾患とも関連していました。

 

equine-reports.work

 

 

 

慢性的な関節炎の結果として形成される滑膜パッド内の骨片は跛行の原因となりうることがわかっています。慢性的な関節炎をコントロールするためには、さまざまな薬剤や血液製剤を用いた関節内投与が試みられています。しかし関節炎が改善しない場合には、この骨片を摘出するために関節鏡手術を行うことは有効な方法です。さらにそれと併用して、運動や調教内容を変更する必要があります。掌側の骨融解を伴う症例ではさらに予後がよくないとされています。

 

競走馬を主とした前肢球節の滑膜パッド増生についての回顧的調査では、対照となった63頭中55頭で関節鏡手術が行われました。手術では主にMC3背側の増生した滑膜および骨軟骨のデブリード、P1の骨片がある場合は骨片摘出が選択されました。術後追跡調査では競走復帰率86%、術前と同等以上のレベルでの競走は68%でした。このことから競走復帰の予後は良好といえそうです。さらに、復帰した競走レベルが高かったのは年齢が若い馬であったことが示されています。

 

equine-reports.work

 

 

 

慢性的な滑膜炎および滑膜パッドの増生は、関節背側のポーチを超音波検査で評価します。また、より関節炎のひどい症例では、X線検査によって、MC3背側の皮質骨がリモデリング(骨増生や骨融解、骨硬化所見)を起こしている様子が確認できます。このような症例でも関節鏡手術は可能で、術後90日以内に調教に復帰できたことが報告されています。

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

馬の前肢球節における慢性的な滑膜パッド増生に対する新たな外科的手技と、11症例の所見および長期的な追跡調査の結果を記述する。1991-1996年の期間に、コーネル大学付属病院に来院した、球節の滑膜パッド増生を原因とする跛行の症例すべてを回顧的に調査した。このうちレーザーによる外科的切除を行った症例を組み入れた。調査項目は、症例の詳細、術前の跛行、超音波、X線検査、滑液検査および病変部の病理組織学的検査であった。関節鏡視下で関節内でレーザーを用いて病変を切除した。長期的な追跡調査は、馬主または調教師への電話聞き取りにより行った。全ての馬で来診時には跛行があり球節が腫脹していた。超音波検査における滑膜パッドの厚みは平均9.0mm(6-15mm)であった。7頭(64%)ではX線検査においてMC3遠位背側の皮質骨にリモデリング所見が認められ、3頭(27%)では同時にP1近位背側に骨折がみられた。術後合併症は記録されていなかった。11頭はすべて術後90日以内に調教復帰し、病変の再発はみられなかった。関節鏡視下での滑膜パッドに対するレーザー切除術は、このような病変を除去するのに迅速で安全で効果的な方法であった。この手術手技は、慢性的な滑膜パッドの増生があり、特に非常に大きな線維性の塊があるときには従来の治療法の最適な代替法となる。

 

馬の超音波検査を幅広く解説しているアトラスはこちら