育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬のプアパフォーマンス:整形外科以外の診断について(Ellisら2022) ④不整脈 心房細動

プアパフォーマンス

馬におけるプアパフォーマンスの原因は様々です。まず思いつく原因として、整形外科的な疾患では関節炎や腱鞘炎、疲労骨折など疼痛や機械的な障害を伴うものがあります。ですが、他にも様々な呼吸器、循環器、消化器および筋肉の疾患があります。

 

まずは慎重な症状の聞き取りと身体検査が重要となります。ここで示す症状が呼吸器症状か、循環器症状か、歩様異常か、消化器症状かを大別します。そこからさらに詳しく分類し、それぞれ診断するための検査に進みます。

 

 

 

循環器疾患の場合

不整脈のなかには、競走馬のパフォーマンスに影響するものがあります。

心房細動はそのうちの一つで、心房細動を発症すると、心房の異常な興奮が連続することにより心房が拡張するだけの時間が得られず、全身に血液を送るための心拍出量が確保できなくなります。これにより、運動中の急激なパフォーマンスの低下や突然死が発生することがあります。馬における心房細動の多くは発作性心房細動で、運動中に自然に発症し、運動後は自然に消失することが多いです。聴診により絶対的不整な心拍が聴診できることで診断できますが、より詳細な評価を行うには心電図検査が必要です。特に心房細動の発症に、すでに先行する心疾患による心房の器質的な変化が伴う場合には要注意です。この場合は心房細動が持続することが多く、除細動できない症例も含まれます。先行する心疾患は主に僧帽弁閉鎖不全症が挙げられますが、これらを確定し重症度を判定するためには心エコー検査が必要となります。

 

 

 

参考文献

 

不整脈

心房細動

症状

激しい有酸素運動を行う馬におけるプアパフォーマンスの主な心血管系の原因は心房細動である。心房が最大に充満する前に不整な心拍が起き、運動中に心拍数が増加すると心拍出量が減少し、プアパフォーマンスに繋がる。心房細動は、他の心疾患の症状と無関係に発生することがある。大型馬に多い。心房細動は、長期経過の僧帽弁閉鎖不全症などの心房拡張をおこす心疾患から二次的に起こることがある。心房細動は発症するものの期間が短いものは、発作性心房細動と呼ぶ。発作性心房細動は運動後に自然に解消するため、検出するのが難しい。エンデュランス競技馬では電解質や循環血液量の攪乱により起きることがある。心房細動を発症した馬は、運動不耐性や突然のパフォーマンス低下がおきる。運動のピーク時に発症すると、馬は突然スピードを落として止まる。疲れて声を出そうとするように見える。鼻出血や気道内出血も起こることがある。

 

診断

心房細動の診断は、聴診により絶対的不整な心拍を確認する。心疾患により心房拡張から二次的におこる心房細動の場合、心拍数が高く、心雑音が聞こえることがあるが、心疾患がないときには心拍数は正常である。心電図により、絶対的不整のR-R間隔とP波の完全な消失、正常なQRS波形およびf波が明らかとなる。運動時の心電図は有用なツールで、心房細動が誘導されたときに異常なQRS波形が見られたときは虚脱や突然死のリスク因子となる。心臓トロポニンⅠ濃度は、心疾患が無い限り心房細動では上がらない。