育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬のプアパフォーマンス:整形外科以外の診断について(Ellisら2022) ⑥不整脈 3度房室ブロック

プアパフォーマンス

馬におけるプアパフォーマンスの原因は様々です。まず思いつく原因として、整形外科的な疾患では関節炎や腱鞘炎、疲労骨折など疼痛や機械的な障害を伴うものがあります。ですが、他にも様々な呼吸器、循環器、消化器および筋肉の疾患があります。

 

まずは慎重な症状の聞き取りと身体検査が重要となります。ここで示す症状が呼吸器症状か、循環器症状か、歩様異常か、消化器症状かを大別します。そこからさらに詳しく分類し、それぞれ診断するための検査に進みます。

 

 

 

循環器疾患の場合

3度房室ブロックは、心房の電気的興奮が洞房結節から伝わらず、心室の拍動が連動しない病態です。心電図検査では心房の電気的興奮を表すP波と、心室の電気的興奮を表すQRSが無関係に出現します。聴取できる心拍数は極端に少なく、20bpmを切ることもあります。主な病歴としては、失神や運動失調、運動不耐性などがあります。

 

 

参考文献

 

 

 

症状

2度房室ブロックと異なり、3度房室ブロックは馬ではほとんどない。しかし、3度房室ブロックがあるとパフォーマンスに影響する。2度房室ブロックは運動中に消失し、運動不耐性の原因となることはない。3度房室ブロックは房室間が乖離するもっともよくみられる形で、洞房結節の電気信号が心室に伝導しない。3度房室ブロックで典型的な症状は、失神、運動失調、運動不耐性、虚脱の病歴がある。

 

診断

3度房室ブロックの症例では、不整な遅い心拍数が聴診される。安静時の心拍数は20bpm以下である。3度房室ブロックでは、心室のゆっくりした拍動に重なるような早いリズムの第4音が聞こえる。頸静脈の顕著な拍動がみられる。心電図検査により確定診断ができる。P波は頻度が上がるが、心室の拍動とは関連しない。