プアパフォーマンス
馬におけるプアパフォーマンスの原因は様々です。まず思いつく原因として、整形外科的な疾患では関節炎や腱鞘炎、疲労骨折など疼痛や機械的な障害を伴うものがあります。ですが、他にも様々な呼吸器、循環器、消化器および筋肉の疾患があります。
まずは慎重な症状の聞き取りと身体検査が重要となります。ここで示す症状が呼吸器症状か、循環器症状か、歩様異常か、消化器症状かを大別します。そこからさらに詳しく分類し、それぞれ診断するための検査に進みます。
骨格筋が原因の場合
骨格筋を原因とするプアパフォーマンスの代表的なものの一つに、横紋筋融解症があります。骨格筋が壊れてしまう疾患で、散発性で飼料や運動に原因がある場合が多く、日本では”すくみ”と呼ばれています。
同じような症状を引き起こす疾患のなかには、鑑別が必要な遺伝的疾患が隠れています。特に糖代謝の異常を原因とする横紋筋融解症を呈す多糖類蓄積性ミオパチー(PSSM)や、ビタミンE依存性ミオパチーなどは、運動後の歩様異常や通常の血液検査で得られる筋肉系の異常は先に挙げた労作性横紋筋融解症と一致します。飼料や運動計画を変更するだけでは対処できない、繰り返し発症する横紋筋融解症では、特殊な血液検査や遺伝子検査も検討すべきかもしれません。
PSSMについて詳しくはこちらをご覧ください。
ker.com
参考文献
Katherine L. Ellis, Erin K. Contino, Yvette S. Nout-Lomas
Equine Vet Educ. 2022;00:1–17
筋肉を原因とするプアパフォーマンス
筋疾患は、運動に関連した疼痛、虚弱および筋委縮を引き起こす。筋委縮がみられる馬では、その原因が整形外科的か、神経学的か、筋原性かを明らかにする必要がある。筋委縮がみられる病態は、馬原虫性脊髄炎、運動ニューロン病、ビタミンE依存性ミオパチー、免疫介在性筋炎、多糖類蓄積性ミオパチー(PSSM)Ⅰ型、外傷、神経傷害または多発性神経症がある。さらにいえば、二次的な筋委縮は、栄養失調、慢性疾患および内分泌疾患でみられる。いくつかは以下で詳細に述べる
筋肉の疼痛は運動中に発生し、疾患により筋肉の破壊(横紋筋融解症)がおきることもある。散発性の労作性横紋筋融解症は1回の強い運動によって発症するが、慢性的な横紋筋融解症やミオパチーは内在する筋肉の構造や機能の異常から発生すると考えられる。名前が示唆する通り、散発性の労作性横紋筋融解症は、間欠的に発生するし、原因は外側にある。発症する要素としては、食事のアンバランス、運動強度の増加、馬の状態が良くないのに運動を強めること、過酷な環境での運動、ウイルス疾患感染時の運動などがある。慢性的な横紋筋融解症やミオパチーは、特定の馬に繰り返し横紋筋融解症や筋肉痛またはプアパフォーマンスがみられる。筋肉の構造や機能における異常は特徴的で、多くの障害について根底にある遺伝子が特定されてきた。遺伝性の筋肉の障害は散発的に症状がでることもあるが、運動習慣の変化とは関連しない。
筋痛の臨床症状は、動きたがらない~軽度の硬さ、硬い歩様から重度の硬直、発汗から横臥まである。疼痛は他の症状を示すこともある。たとえば、排尿姿勢を頻繁にしたり、疝痛症状をしめすこともある。筋損傷が重度の症例では、ミオグロビン破壊による血色素尿を呈す。軽度の症状を示す馬のなかには、見た目には臨床的に異常ないが、プアパフォーマンスや歩様の変化といった病歴がある。
横紋筋融解症ではクレアチンキナーゼCK、アスパラギン酸トランスフェラーゼASTの上昇がルーティンな血液検査でみられる。血清CKは急性の筋肉損傷で最も特異度の高いマーカーで、損傷から4-6時間でピークを迎える。これは次第に濃度低下し、半減期は12時間である。ASTのピークは発症後24時間で、その後数日から数週は上昇が持続する。したがって、血液検査の結果から最近の発症したタイミングはいつか、注意して判断する。
運動試験では、15分間の軽度から中程度の運動前後にCK濃度が上昇するかが、根底にある筋肉の異常を確認するのに役立つ。CK濃度がベースラインより2-3倍高いと陽性と判断し、無症状の労作性横紋筋融解症を示唆する。
遺伝的な労作性横紋筋融解症(PSSMや悪性高熱症malignant hyperthermia)を検出するため、血液または毛根の遺伝子検査が行われる。労作性横紋筋融解症の遺伝型を確定診断するために筋肉のバイオプシーが行われる。
筋萎縮の原因を明らかにするには、ルーティンな血液検査、血清ビタミンE濃度、電気診断(筋電図や神経伝達速度)、遺伝学的検査および筋肉のバイオプシーが一助となる。