プアパフォーマンス
馬におけるプアパフォーマンスの原因は様々です。まず思いつく原因として、整形外科的な疾患では関節炎や腱鞘炎、疲労骨折など疼痛や機械的な障害を伴うものがあります。ですが、他にも様々な呼吸器、循環器、消化器および筋肉の疾患があります。
まずは慎重な症状の聞き取りと身体検査が重要となります。ここで示す症状が呼吸器症状か、循環器症状か、歩様異常か、消化器症状かを大別します。そこからさらに詳しく分類し、それぞれ診断するための検査に進みます。
骨格筋が原因の場合
馬における遺伝性筋肉疾患の多くは、クォーターホースでゲノム解析が進んでおり、遺伝子変異が明らかにされています。血液や毛髪もしくは筋肉のバイオプシーを用いて遺伝子変異を特定することが可能です。
サラブレット競走馬においては、回帰性の横紋筋融解症が報告されており、北米や英国における調査では、労作性横紋筋融解症は1シーズンに4.9-6.7%の割合でみられることが報告されています。
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
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参考文献
Katherine L. Ellis, Erin K. Contino, Yvette S. Nout-Lomas
Equine Vet Educ. 2022;00:1–17
遺伝性筋疾患
回帰性労作性横紋筋融解症 Recurrent Exertional Rhabdomyosis
回帰性労作性横紋筋融解症はサラブレッドにおける遺伝性の異常で、明確な誘因がなくても間欠的な労作性横紋筋融解症を発症する。競走しているサラブレッドにおいては、1シーズンで4.9-6.7%にみられ、牝馬の方が多い。
悪性高熱 Malignant Hyperthermia
悪性高熱は、クォーターホースおよびペイントホースにおいてRYR1遺伝子の変異が見つかっている。これは常染色体優性遺伝子変異で、クォーターホースで報告されていて、突然死、横紋筋融解症、筋酵素活性の持続的な高値の履歴がある。遺伝子検査は、全血または毛根の検体について行われる。
免疫介在性筋炎 Immune-mediated Myosis
免疫介在性筋炎は、クォーターホースに関連した品種でみられる異常で、MYH1遺伝子の変異が原因である。有病率は牛追いやレイニングを行う馬で最も高く、ストレプトコッカスの感染およびインフルエンザまたはライノウイルスのワクチン接種から3-4週間後、または免疫刺激作用のある投薬を受けた後にも発症することがある。免疫介在性筋炎では、対称性の急速な筋委縮が、初期にはトップラインの筋肉にみられる。血清中CKやAST濃度の上昇は、病態の初期に顕著にみられる。筋委縮の初期段階でも、臀筋や体軸の筋肉バイオプシーで診断できる。毛髪検体から遺伝子検査が可能である。
Ⅰ型多糖類蓄積性ミオパチー PolySaccharide Storage Myopathy type 1 PSSM
1型PSSMは、クォーターホース(特にhalterクォーターホース)および輓系種で最もよくみられる。PSSMのクォーターホースでは、骨格筋のグリコーゲン合成遺伝子(GYS1)に単一のミスセンス変異が見つかっている。罹患した馬の筋肉には、アミラーゼ感受性の高いグリコーゲンの過剰またはアミラーゼ抵抗性の多糖類がみられる。これらの物質が加齢とともに蓄積する。筋肉内のグリコーゲンが過剰となり、運動時のエネルギー源が欠乏して、持続的な血清CKの高活性となる。Ⅰ型PSSMのホモ接合体遺伝子を持つ馬は、ヘテロ接合体よりも重症化する。血液や毛髪の遺伝子検査で確定できなかった場合は、半膜様筋の生検が行われる。