育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

MRIとエコーで喉頭異形成を診断した5例(Garretら2009年)

喉頭片麻痺はほとんどが左に発生し、これは左反回喉頭神経が障害されやすいためと考えられています。これは解剖学的な特徴に起因するという通説がありますが、病態形成についてはまだまだ不明な点も残されています。

一方で右の喉頭片麻痺はあまり多くなく、しばしば第4鰓弓欠損(fourth branchial arch defect: 4BAD)に関連してみられます。これは先天的な疾患で、発生の段階で喉頭の筋肉や軟骨に様々な程度の形成異常や低形成をおこします。

内視鏡検査では特徴的な披裂軟骨の外転不全や咽頭口蓋弓の吻側変位は評価できるものの、その他の軟骨や筋肉の異常までは評価できません。したがって、4BADかそれ以外の原因で披裂軟骨の外転不全がおきているのか判断がつきません。軟骨形状に異常がある、特に喉頭形成術に関連する軟骨構造が欠損している場合には、良好な成績は望めないか、そもそも手術適応ではないかもしれません。しかし、かつては生前に診断することが難しいとされていました。

 

 

 

そこで、喉頭の超音波検査を行うことにより、喉頭異形成の診断に取り組んだ調査があります。この調査では、咽頭口蓋弓の吻側変位と右の披裂軟骨麻痺がある症例に対して、MRIで軟骨や筋肉の詳細な情報を得て、超音波検査で得られた所見と比較しました。喉頭異形成に特徴的な所見が超音波検査でも検出できることが示され、この疾患に対する外科的な処置を選択する上で重要な情報が得られることが明らかにされました。

以上のことから、術前に喉頭内視鏡検査と併用して超音波検査を行うことは重要であることがわかります。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由

 馬ではこれまでに第4鰓弓の発達異常が示唆される喉頭異形成が報告され、咽頭口蓋弓の吻側変位および右側の喉頭機能不全と関連していた。これらの調査はすべて内視鏡検査および解剖によって疾患を同定したものであったが、超音波検査やMRIの所見は記述されていない。

 

仮説

 MRIと超音波検査は、第4鰓弓の異常が想定される解剖学的特徴を正確に反映でき、この状態を正確に診断して適切な管理ができる。

 

方法

 2008年2月から2009年1月の期間でRood&Riddle馬病院において、内視鏡検査にて咽頭口蓋弓の吻側変位および右側の喉頭機能不全と診断し、喉頭の超音波検査とMRIを行った5例。

 

結果

 組み入れ基準に合致した馬は5頭で、喉頭MRIと超音波検査を行った。喉頭の異形成に一致する所見は、輪状甲状関節がなく、甲状軟骨の管腔が背側に伸び、輪状咽頭筋の無形成もしくは低形成で、これらは全ての症例でMRI、超音波検査ともに確認できた。

 

結論と潜在的関連性

 MRIと超音波検査では、喉頭異形成を生前に確定診断できる。内視鏡検査でみつかる上気道の異常は、MRIと超音波検査によって詳細な所見をあきらかにでき、より適切な処方をすることができる。術前の画像評価により、不適切な外科的処置を回避できるかもしれない。