育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

トレッドミル内視鏡検査と超音波検査および安静時内視鏡検査との関連(Garrettら2011年)

反回喉頭神経症は、左反回喉頭神経の障害により、輪状披裂筋が神経原生筋萎縮をおこすことで、披裂軟骨の外転がうまくいかなくなることが主要な病態です。萎縮をおこした輪状披裂筋は、安静時の披裂軟骨の外転不全につながるだけでなく、運動などで呼吸時の気道内圧が上昇することで披裂軟骨が虚脱・内転して上気道閉塞をおこします。換気がうまくいかなくなることで、プアパフォーマンスの原因となります。

 

 

前述のように、安静時の喉頭内視鏡検査において披裂軟骨の外転不全が見られる場合には反回喉頭神経症が疑われます。しかし、運動時内視鏡検査と比較すると、必ずしも安静時の外転不全が運動時の披裂軟骨虚脱と関連しているわけではないことがわかってきました。

equine-reports.work

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そこで、神経原生萎縮を起こしている筋肉を直接評価する方法が考案されています。具体的には、外側輪状披裂筋および背側輪状披裂筋を超音波検査で評価します。実際に披裂軟骨の外転にかかわっているこれらの筋肉の萎縮は、超音波検査ではエコー輝度の上昇や横断面積の低下の所見が得られることと関連していることがわかっています。

 

トレッドミル内視鏡検査、安静時内視鏡検査および超音波検査を比較した調査があります。トレッドミル内視鏡検査を基準とした異常な披裂軟骨の動きについての診断は、喉頭超音波検査では、感度90%、特異度98%であり、安静時内視鏡検査では感度80%、特異度81%であったと報告されています。

 

 

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由

 従来は、内視鏡検査により披裂軟骨の動きは評価していた。しかし、近年は喉頭超音波検査によりさらに補完的な情報を得られることが示唆されている。

 

目的

 馬において、反回喉頭神経症の診断における喉頭超音波検査の価値を明らかにすること。

 

仮説

 トレッドミル内視鏡検査において、異常な披裂軟骨の動きがみられる馬では、左外側輪状披裂筋のエコー輝度が増し、面積が小さくなり、声帯筋も小さくなる。一方で、トレッドミル内視鏡検査で披裂軟骨の動きが正常な馬では、左外側輪状披裂筋のエコー輝度は正常で、左右で筋肉の大きさは同じである。喉頭超音波検査は、安静時よりも運動時の異常な披裂軟骨の動きを正確に予測できる。

 

方法

 2歳以上のサラブレッド競走馬で、安静時および運動時内視鏡と超音波検査を行った馬の医療記録を調査した。安静時と運動時の内視鏡所見はグレード分類した。披裂軟骨の動きの標準はトレッドミル内視鏡検査とした。喉頭超音波検査では、左右の外側輪状披裂筋のエコー輝度を相対的に評価し、外側輪状披裂筋と声帯筋の横断面積を明らかにした。データ解析にはχ2乗検定、対応のあるt検定および片側ANOVAを用いた。

 

結果

 異常な披裂軟骨の動きは相対的に外側輪状披裂筋のエコー輝度が高く、正常な披裂軟骨の動きの馬ではこの所見はなかった。異常な披裂軟骨の動きについての診断は、喉頭超音波検査では、感度90%、特異度98%であり、安静時内視鏡検査では感度80%、特異度81%であった。外側輪状披裂筋と声帯筋の横断面積は、群間に有意差はなかった。

 

結論

 喉頭超音波検査は、異常な披裂軟骨の動きを正確に診断できる。

 

潜在的関連性

 超音波検査は馬の上気道の診断的評価のために価値がある。