馬の十二指腸-近位空腸炎は、散発的に見られる病態であることが知られています。
臨床的な特徴は急性の小腸のイレウスによる腸管膨張と胃拡張による疝痛です。十二指腸から空腸の内容物が胃へ逆流することにより急激な胃拡張を起こすことで、胃破裂のリスクがあります。
小腸近位部の炎症性疾患ではありますが、その炎症がどうして起きるのかはまだ解明されていません。病原性微生物の関連が疑われており、感染実験や投与実験(細菌の毒素を経口投与)では、臨床例と同じ病理組織学的変化が起こることが明らかにされています。しかしながら実際に馬の小腸内でその細菌が増殖して、毒素の放出がその部位で起きる可能性は低いことから、直接的な原因とはなっていないかもしれません。
小腸のイレウスと胃逆流が主症状であるため、腸炎が沈静化し機能が回復するまでは絶食が必要となります。その間に電解質の補正やエンドトキシンショックの予防と対策、栄養補給を静脈輸液から行うことが一般的です。また、胃拡張による胃破裂が最も致命的な合併症であるため、定期的または常に胃カテーテルを挿入して減圧を行う必要があります。内科的治療で改善しない、もしくは通過障害を排除できない場合には試験的な開腹手術で確定することもあります。しかし術後に逆流が止まる症例が少ないことも事実で、術後管理にも気が抜けない症例です。全体的な生存率の報告は25〜94%とばらつきがありますが、短期的な退院までの生存率は67〜87%ともう少し高いです。
文献抜粋
その⑤から つづき
合併症
蹄葉炎はDPJから二次的に30%で発症が報告されている。蹄葉炎のリスク因子として示唆されているのは、エンドトキセミア、高体重、出血性の胃逆流がある。心臓不整脈も報告はあるが、原発のDPJを治療中に解消された。前述した通り肝障害も起き、血中肝酵素の上昇やバイオプシーや剖検における肝臓の構造的な変化が特徴である。他の報告されている合併症は、感染性腹膜炎、心筋炎、腎梗塞、誤嚥性肺炎、小腸近位部の癒着がある。
予後
DPJの生存率は25〜94%と報告されている。退院と定義した生存率は、ペンシルバニアでは87%(104/120頭)、テキサスでは67%(50/75頭)、ノースカロライナでは85%(56/66頭)と報告されている。いくつかの報告では外科治療を行なった症例の生存率は63〜96%と高いが、Underwoodらの調査では内科治療で91%、外科治療で75%の生存率が報告されている。
来院時の24時間以内の胃逆流の量、アニオンギャップ、腹水のTPは記録されていて、これらはDPJ症例の生存についての予後因子として臨床的に有用であるとみなされた。24時間以内の胃逆流の量は48Lを超えると死亡リスク増加と関連していた(オッズ比4.13 95%信頼区間 1.20-14.1)。腹水のTPについては、DPJ 75症例で調査され、3.5 g/Lを超える症例は、超えない症例と比較して約4倍死亡しやすかった(オッズ比3.8 95%信頼区間 1.18-12.08)。同様に、アニオンギャップが15 mEq/Lを超える症例は、超えない症例と比較して約6倍死亡しやすかった(オッズ比6.43 95%信頼区間 2.06-20)。DPJで合併症に関連して安楽死となった理由は、蹄葉炎、手術時の外見、数日間の治療に反応しなかったことであった。
結論
DPJ症例を一貫して定義できるものはない。しかし、病態の主な臨床的特徴はよく知られている。DPJの病態形成についてはまだわかっていないが、最近のデータではC. difficileの潜在的な原因因子としての役割を示す実験的根拠が示されてきた。いくつかの細菌感染によりこの病気が引き起こされている可能性があり、臨床的にはDPJはこう考えられ、C. difficileがこのうちのひとつであるという強い根拠が示されている。実験的にこの病態を再現するのは困難で、これはおそらく発症しやすい要素についてわかっていないからである。DPJ発症につながるリスク因子を解明するための更なる調査をすべきである。
参考文献
要約
十二指腸ー近位空腸炎(DPJ)は小腸近位部の炎症性病態のひとつで、馬において散発的に発生する。臨床的な特徴は、急性に発症するイレウスと鼻からの胃逆流により全身性の毒素血症を引き起こす。このレビューでは、疾患の定義、病態の原因となる可能性のある因子、臨床所見、疫学的な特徴、組織学的および臨床病理学的所見および内科的治療について検討する。この疾患には、Salmonella spp, カビ類、Clostridium perfringens, Clostridium difficileが全て関連付けられてきたが、C. difficileを除いてそのことを支持する根拠は限定的である。一方で、病態の原因の調査には特に関心が集まっており、提唱されている病態形成因子を支持するデータも出ている。C. difficileは病態の原因となる因子としての潜在的な役割があり、病態形成にも関わっている可能性があるが、近年の調査でこの仮説が強調されている。しかし、この疾患の原因は2つ以上の因子があることも認識されている。
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