輸送に関連した呼吸器疾患、いわゆる輸送熱が増加してきているように感じます。
競走馬にとって出走するにも休養するにも、輸送は避けられないものですが、これは競走馬に多く発生する呼吸器疾患の最大のリスク因子となっています。
レース後すぐに輸送したり、輸送直後に追い切りをすることは馬の体にとって負担が大きく、呼吸器疾患のリスクが増大します。効率的に出走するためのオペレーションも重要ですが、馬の体調に合わせることも同じくらい重要であることを認識していただきたいです。
呼吸器疾患はパフォーマンス減退につながるだけでなく、重度の肺炎は致命的になることも少なくありません。感染性の呼吸器疾患になりやすい要因としては、休養せずに長距離輸送したり、輸送直後に強度の高い運動をすることや食道閉塞、誤嚥、免疫抑制が挙げられています。
馬の肺炎では細菌が気道内に吸引され、生体の防御機構を突破して下部気道で増殖することで起きます。肺炎の症例からは日和見感染を起こす菌を含む、嫌気性および好気性の複数の菌が培養されることが多いことがわかっています。馬ではウイルス感染が細菌感染を助けるのに重要ではないようです。
多くは臨床症例から得られた結果を報告したものですが、今回はカリフォルニアで剖検した症例についての報告を紹介します。
この調査では、2005−2014年に肺炎、気管支肺炎および胸膜肺炎が死因であった馬の剖検所見をまとめています。全部で83症例、2−3歳の若い馬が多く(65%)、胸膜肺炎が最も多く(71%)、気管支肺炎(18%)が次いで多く含まれていました。胸膜肺炎の病変は両側でみられることがほとんど(69%)で、部位は頭腹側が35%、肺全体が53%でした。一方で、気管支肺炎は右肺の尾側で最も多く約半数を占めていました。73%の症例で一つ以上の膿瘍や壊死病変が見られ、最も多かった部位は右肺尾側部でした。
細菌培養検査では、74症例(89%)で、114の菌種が分離培養されました。最も多く分離されたのはS. zooepidemicusが72%、大腸菌群が22%、次いで混合フローラ、Actinobacillusなどが見られたほか、S. zooepidemicusが単独で分離されたのは32%でした。胸膜肺炎と気管支肺炎のどちらももS. zooepidemicusが最も多く分離された細菌でした。
ほとんどの症例は重度の線維素性胸膜炎が両側または片側に見られ、感染した肺の病変から胸膜へと移行していると示唆されました。両側の病変が見られることは、ほとんどの馬の縦隔が左右を分けるのが不完全であるからと考えられています。壊死した肺組織があることは予後が悪く、治療コストが高くなり将来のパフォーマンスが良くないため安楽死となっていました。
多くの症例で分離されたS. zooepidemicusは片利共生菌である一方で、様々な疾患から分離される細菌です。この菌は宿主の組織に結合して定着し、さらに免疫から逃れる術も持ち合われています。分離された症例では、病変の部位や膿瘍および壊死の有無とは関連しないことがわかりました。重度の壊死病変が見られたことは、細菌のプロテアーゼだけでなくペプチドグリカンが炎症を増強しているからかもしれません。
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