EIPHが馬に与える影響について、これまでに行われた調査をワーキンググループが精査してエビデンスを評価したものが公開されています。
EIPHのパフォーマンスへの影響について
競走馬に関わる人間にとって最も関心があることは、EIPHが競走パフォーマンスに与える影響があるのかということです。しかし、これまでにも触れられてきた通り、臨床症例については様々な投薬や予防的措置が取られてきており、これらの影響を排除することができないのが現状です。とりわけ、EIPHの予防に効果的だと考えられてきたフロセミドの投与は、米国の多くの馬行われてきており、影響は無視できません。また、パフォーマンスを評価する方法についても、まだ課題があるのが現状です。
さて、以上の前提を踏まえた上で、これまでに報告されている調査をまとめると。
中程度から重度のEIPHがパフォーマンスに負の影響を与えるという幾つかの調査結果があります。着順が下がる可能性が増すこと、勝ち馬から離されること、獲得賞金に負の相関があることは、中程度から重度のEIPHと関連するという中程度の質のエビデンスがあることが示されています。
北米の獣医大学の内科学の著名な先生が作成した運動誘発性肺出血EIPHについての合意声明がJVIMに掲載されています。これはOpen Accessで誰でも読むことができます。
2.EIPHはパフォーマンスに影響するか
EIPHの発生率の高さから、サラブレッド競走馬におけるパフォーマンス低下の重要な原因かどうかの調査が進められてきた。競走馬に関わるホースマンや獣医の間で強く信じられてきたが、一方でEIPHは優秀なパフォーマンス、つまりより良い成績を残そうとすることを反映している、と関連することが示唆されてもきた。EIPHとパフォーマンスの関連を評価するためには、競走またはトレッドミルの試験における結果や測定方法を確立する必要がある。
EIPHと競走成績は関連するか
競走成績とEIPHの関連についての調査は7本ある。1本は中程度、6本は低いまたは非常に低いエビデンスであった。2つの調査では、気管内視鏡検査でEIPHを検出し、これが競走成績が劣る可能性と関連していた。1つは競走当日のフロセミドや鼻腔ストリップの使用が禁止されているオーストラリアにおける744頭のサラブレッドの調査であった。もう一つは全頭がフロセミド投与を受け、すでにEIPHと診断されていた1003頭のサラブレッド競走馬(2118回の検査)についての調査であった。最も信頼できるエビデンスのある研究(先のオーストラリアのもの)では、EIPHのない、またはEIPH G1は3着以内に入る率が高かった。5つの調査ではEIPHによる着順の影響はないとされたが、フロセミドを予防的に使われていたかは不明であった。
中程度から重度のEIPHは競走着順が劣る可能性が増すことと関連するという中程度の質のエビデンスがある。
EIPHは走破タイムと関連するか
少なくとも1回EIPHを発症せず出走したスタンダードブレッドの29症例についての1つの調査がある。EIPH 陽性馬と EIPH 陰性馬の平均競走タイムを比較したが、統計的有意差は検出されなかった。この報告は、統計的検出力が低いこと、馬が無作為に選択されていないこと、レースタイムが勝馬にのみ記録されていることなどから、非常に質が低いものであった。
スタンダードブレッド競走馬のEIPHはレースの完走タイムと関連しないというエビデンスは非常に質が低い。
EIPHは勝ち馬から離された距離と関連するか
EIPHが勝ち馬から離された距離に与える影響についての調査は一つだけある。EIPHの重症度が1以上の馬は、EIPHの所見がない馬よりも勝ち馬の後方でゴールした。EIPHの症例で勝ち馬から離された距離はEIPHのグレードと関連していて、グレードが高いほど勝ち馬からより離されていた。ポストホックテストでは、EIPHの証拠がない馬と比較して、グレード2のEIPHの馬では勝ち馬から離された距離に有意差があることが示された。
EIPHのグレードが高いほど勝ち馬からより離されるという中程度の質のエビデンスがある。
EIPHと獲得賞金は関連するか
EIPHの獲得賞金への影響を調査したものは一つある。EIPHのG1以下はG2以上と比較して獲得賞金の上位10分の1に入る確率が約3倍であった。
サラブレッド競走馬におけるEIPHの重症度は獲得賞金に負の相関があることを示す中程度のエビデンスがある。
EIPHの重症度と成績との間に用量反応的な関係があるか
競馬場におけるEIPHの重症度がパフォーマンスに与える影響を評価した報告は3つある。中程度の質のエビデンスのある調査では、EIPHの重症度はパフォーマンスに負の関連があることが示された。最もエビデンスの強い調査では、勝ち馬から離された距離には明らかな用量反応関係が見られたが、カテゴリ変数(1着または3着以内)で分類した着順の間には見られなかった。
サラブレッド競走馬において、EIPHの重症度と成績低下の重症度との間に用量反応関係があることを示すことは質の低いエビデンスがある。
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