育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬における運動誘発性肺出血:北米大学獣医内科によるコンセンサスステートメント⑤ EIPHに効果的な予防方法はあるか(Hinchcliffら2015)

EIPHが馬に与える影響について、これまでに行われた調査をワーキンググループが精査してエビデンスを評価したものが公開されています。

 

 

 

EIPHの予防方法について

EIPHに対する治療方針はほとんど示されておらず、発症後にどうすればいいのかはほとんどわかっていないのが現状です。

臨床的なレポートのほとんどは、EIPHをどう予防するかに焦点が当てられ、様々な薬剤の効果が検証されてきました。しかし、ほとんどは気管内の出血の有無をもとにEIPHの有無を判断したものでした。

フロセミドは運動前に投与することでEIPHの発生率や重症度を下げることができるという質の高いエビデンスがある唯一の薬剤であることが示されています。

他の薬剤は小頭数であることや重症度まで検証されていないことなどからエビデンスレベルが低いとされています。

 

 

 

北米の獣医大学の内科学の著名な先生が作成した運動誘発性肺出血EIPHについての合意声明がJVIMに掲載されています。これはOpen Accessで誰でも読むことができます。

 

 

 

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

3.EIPHに効果的な予防方法はあるか

 薬剤および非薬理学的管理の効果についての全ての研究は予防に焦点が当たっている。EIPH発症馬の肺病変の重症度や進行を減ずるための治療法についての報告はなく、EIPH症例の治療(EIPH発症後の短期的な臨床的影響の管理)についての報告もない。同様に、競走中のEIPHを予防するための調教中に行う介入の有効性についての報告もない。

 

フロセミドはEIPHの有効な予防となるか

 トレッドミルと競馬場の両方で行われた質の低い調査の多くはフロセミドはEIPHの治療薬として効果のないものと判定している。これらは運動後に内視鏡で出血の有無のみを確認しており、出血の重症度を判定しようとはしていない。質の低い研究では、標準化されたトレッドミル運動テストを行った馬のBALFで赤血球数の減少が見られた。2つの質の高い調査では、競馬場で走った馬の多くで内視鏡による出血のグレード分類でEIPHの重症度が低くなったことが確認された。

 フロセミドを高強度の運動の4時間前までに0.5−1.0 mg/kgで投与することで、EIPHの重症度と発生率を下げられるという質の高いエビデンスがある。

 

フロセミドは肺血管内圧に影響するか

 EIPHに関連して、トレッドミルを用いたいくつかの中程度の質の調査があり、フロセミドによって肺動脈圧および肺胞壁圧(左心房圧)が減少し、従って、高強度運動中の肺毛細血管および壁圧が減少することが一貫して示されてきた。これらの減圧により、毛細血管のストレスによる破綻が起こりにくくなる可能性がある。

 フロセミドは激しい運動中の肺血管圧を低下させるという中程度の質のエビデンスがある。

 

アミノカプロン酸はEIPHの有効な予防薬か

 2つのトレッドミルを用いたランダム化されたプラセボー対照試験では、アミノカプロン酸を運動2−4時間前に2−7g IVし、疲労困憊まで運動テストを行ったところ、生食を投与したプラセボと比較してBALF中の赤血球数は減少しなかった。しかし、成績の測定が不正確で間接的(バイアスのリスクがある)、頭数が少ない(6−8頭)であったため、これらはどちらも非常に質の低いエビデンスであった。

 アミノカプロン酸がEIPHの重症度に影響するというエビデンスは非常に質が低い。

 

気管拡張薬はEIPHの有効な予防薬か

 クレンブテロールの単独IVまたはフロセミド(運動10分前投与)との併用は肺の血行動態に影響しない。しかし、EIPHの重症度に与える影響は評価されていない。安静にしている馬の気管内に自己血を注入し、9日間クレンブテロールを投与しても、BALFの赤血球数やへモジデリン貪食マクロファージはコントロールと比較して変化はなかった。少数の馬を用いた他の調査ではEIPHに対するアトロピンの効果はなく、イプラトロピウムの吸入では結論が出なかった。全ての調査は小頭数であり盲目化されていないことから非常に質が低いエビデンスであった。

 気管拡張薬がEIPHに影響するというエビデンスの質は非常に低い。

 

コルチコステロイドはEIPHの有効な予防薬か

 トレッドミルを用いた1つの調査では、デキサメタゾンを3日間投与してEIPHは予防されなかったが、EIPHの重症度は評価されなかった。ベルコメタゾンの9−10日間の吸入またはプレドニゾロンの経口投与のどちらも、安静にしている馬の気管内に自己血を注入した後のBALFにおける赤血球やへモジデリン貪食マクロファージに変化はなかった。

 コルチコステロイドがEIPHの重症度に影響するというエビデンスは非常に質が低い。

 

NSAIDsはEIPHの有効な予防薬か

 非常に質の低いトレッドミルの調査では、フェニルブタゾン(フロセミドとの併用)またはフルニキシンメグルミンのEIPH(内視鏡で出血の有無を評価した)への効果は検出できなかった。

 NSAIDsの投薬がEIPHに影響するという非常に質の低いエビデンスがある。

 

ペントキシフィリンはEIPHの有効な予防薬か

 2件のトレッドミル試験では、ペントキシフィリン単独なたはフロセミドとの併用で肺の血行動態になんの影響もないことが明らかになった。EIPHの重症度は評価されていないものの、EIPH(内視鏡で出血の有無を評価した)に対するペントキシフィリンの効果は検出されなかった。

 ペントキシフィリンがEIPHに影響するという非常に質の低いエビデンスがある。

 

他の治療でEIPHの有効な予防法はあるか

 カルバゾクロム(フロセミドとの併用)、馬濃縮血清、抱合エストロゲン、エンドセリン1ーA拮抗薬、ネドクロミル、一酸化窒素、シルデナフィルがEIPHの予防薬として、それぞれ1つずつ調査されている。これらの研究はすべてトレッドミルを用いて行われ、小頭数であり、EIPHの重症度が評価されていないため、非常に質が低い。実際に使用が報告されているが、アスピリンやエタンシレートの有効性についての化学的根拠は見つけられなかった。

 これらの薬剤がEIPHの重症度に影響するという非常に質の低いエビデンスが得られた。

 

鼻孔ストリップ(鼻孔を広げるテープ)はEIPHを予防するか

 質の低いトレッドミルを用いた調査では、鼻孔ストリップは、気道内の出血の有無を評価したところEIPHの予防には効果がなかった一方で、出血の重症度は分類されなかった。他の4つの調査では、限られた頭数の馬で行われ、鼻孔ストリップを装着して運動したところ、運動後のBALFにおける赤血球数が有意に減少することが示された。

 鼻孔ストリップがEIPHの重症度を低下させるという質の低いエビデンスがある。

 

EIPHを予防するその他の非薬理学的治療はあるか

 ハーブや液体を蒸発させて吸入することで、EIPHの予防における有効性の根拠は示されていない。研究の質は非常に低い。

激しい運動前の休養や水分の制限が推奨されてきたが、これらがEIPHの発生率や重症度を低下させるという科学的根拠はない。にもかかわらず、いくつかの競馬統括機関は鼻出血の馬に2−3ヶ月の休養期間を強制させてきた。

 ハーブを調整したものや水蒸気の吸入がEIPHの重症度に影響するという非常に質の低いエビデンスが示された。