育成馬臨床医のメモ帳

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馬における運動誘発性肺出血:北米大学獣医内科によるコンセンサスステートメント⑥ フロセミドはパフォーマンスに影響するか(Hinchcliffら2015)

EIPHが馬に与える影響について、これまでに行われた調査をワーキンググループが精査してエビデンスを評価したものが公開されています。

 

 

 

フロセミドがパフォーマンスに影響するか

北米では一般的にレース前に投与されているフロセミドですが、これが競走能力に影響を与えるのか、はEIPHの予防だけでなくホースマンからの関心があるところでした。

実際に競走タイム、着順、賞金、走行スピードを標準化して比較することは、現実的には困難を極めています。しかしながら様々な内的および外的因子を統計学的にうまく処理して、フロセミドの投与の有無でパフォーマンスが異なるか比較してみたところ、わずかに優れたパフォーマンスと関連しているかもしれないという中程度の質のエビデンスがあると示されました。一方で、レース条件を再現して比較してみた調査では差がないことが報告されましたが、そもそもレースの環境を再現することが難しく、小頭数であったことから、この結果のエビデンスは質が低いと判断されています。

トレッドミル上でのパフォーマンスを比較した調査では、疲労するまでの時間が長くなったことが示され、パフォーマンス向上との関連が示唆されました。一方で実際の競走能力は単純な走行能力だけでは推し量れないことから、エビデンスの質は低いと判定されています。

 

 

 

北米の獣医大学の内科学の著名な先生が作成した運動誘発性肺出血EIPHについての合意声明がJVIMに掲載されています。これはOpen Accessで誰でも読むことができます。

 

 

 

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

4.フロセミドはパフォーマンスに影響するか

 競馬場におけるパフォーマンスを評価しようと様々な成績の評価が行われてきた。しかし、評価方法を標準化することは難しく、それは多くの内的要因(性別、年齢、馬の質、フィットネスレベル)や外的要因(騎手、距離、馬場状態、環境因子)がレースによってバラバラで、結果には交絡バイアスが生じてしまうからである。外的および内的要因を制御することは、高速トレッドミルで走らせてレースモデルを作ることでより可能となるが、このモデルは本質的に成績の一般化には限界がある。加えて、ほとんどのトレッドミルを用いた研究は頭数が少なく、結果的に統計学的パワーが低い。トレッドミル試験で得られたデータを実際のレース中のパフォーマンスに外挿できるかどうかは確立されていない。

  競馬場で行われた調査のほとんどは、標準化された距離を走破するための調整されたレースタイムを成績の評価測定として用いてきた。一方で他の調査では着順、速度や獲得賞金が用いられた。トレッドミルによる研究では、走行距離や疲労困憊までの時間をパフォーマスの指標とした。トレッドミルを用いた研究のなかには、フロセミドが運動エネルギー消費に与える影響を調査したものもあった。

 

フロセミドは競馬場で走る馬のパフォーマンスに影響するか

 サラブレッドおよびスタンダードブレッドにおける調査は、自然な競走条件および再現した状況で実施された。最も頭数の多かった(22589頭)調査では、フロセミドを予防的に投与された馬はされなかった馬と比較してマイルの通過タイムが0.56ー1.09秒速かった。通常のレース条件で行われた4つの調査全てで、中程度の質のエビデンスが示された。これは研究デザインや解析方法によってバイアスのリスクが抑えられ、関連する結果指標(例えば距離に調整した走破タイム)を使用し、検出力が十分で一貫した結果を示したためであった。レースの状況を再現した2つの調査では、プラセボと比較してフロセミドの影響が検出されなかった。しかし、どちらの調査も成績の評価測定が不正確(バイアスのリスクがある)、頭数が少ない(6−10頭)、レースを再現したが速度が遅いことから、エビデンスの質は非常に低い。

 着順や平均走速度、獲得賞金をパフォーマンスの評価に用いた調査でも、競走前のフロセミド投与は投与しなかった馬と比較して一貫した恩恵があった。もっとも大規模な調査では性差があり、6歳以下の馬ではオスの方が効果が顕著であったことがわかった。これらの調査のエビデンスの質は中程度と考えられた。優れたパフォーマンスが出るメカニズムについての調査はない。

 レース4時間前までのフロセミド投与はサラブレッドおよびスタンダードブレッドの競走成績を改善するという中程度の質のエビデンスがある。

 

トレッドミル上での走行パフォーマンスにフロセミドは影響するか

 トレッドミルを用いた標準化されたテストにおけるパフォーマンスへの影響を調査した研究が5つある。2つはフロセミドを投与すると疲労困憊までの時間が統計学的に長くなることがわかった。3つの調査では、事前のフロセミド投与が運動によるエネルギー消費を改善することがわかった。

 これらのすべての調査のエビデンスの質は低く見積らざるを得ない。なぜなら、トレッドミル上のパフォーマンスと競馬場でのそれの関連性はわかっていないし、レースにおける騎手やサルキー、他の馬の影響は実験室では再現できないからである。また、トレッドミルのパフォーマンスは典型的には疲労困憊までで判断されるが、これは主観的な評価で、治療を隠していないことに影響されている可能性がある。

 トレッドミル運動試験の4時間前にフロセミドを静注することで、疲労困憊を迎えるのが遅くなり、運動によるエネルギー消費を改善できるという質の低いエビデンスがある。