育成馬臨床医のメモ帳

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馬の炎症性腸疾患【IBD】 これまでにわかっていること① IBDの分類総論(Vitaleら2022)

はじめに

 炎症性腸疾患(IBD)は、ヒトと動物の両方において消化管の炎症の再発を特徴とする衰弱性疾患として記述されている一群の消化管疾患である。馬では、IBDは粘膜や粘膜下織に異なるタイプの炎症性細胞が浸潤するものとして認識され、発症機序はまだ解明されていないが、結果として生じる腸管の炎症は未同定の抗原に対する免疫反応の変化によるものと思われる。

 文献では、1974年以降、散発的な症例報告がされてきて、最新の網羅的なレビューが公開された日は2009年である。臨床症状は非特異的で、様々な診断結果は大きくばらつくため、診断方法は標準化されたものがない。さらに、犬とは対照的に、消化管バイオプシーの病理組織学的結果を解釈するための明確なガイドラインはない。さらに、治療に対する反応や有病率に関する情報は限られていて、従って、症状や病態が一致する多くの症例は、まだ定義されていない。

 このレビューの目的は、馬のIBDについて最も関連性の高い文献の要約を提供し、臨床症状、診断、治療および予後についての最新の情報を提示することである。

 

馬におけるIBDの分類

 馬における様々なタイプのIBDの命名法に関して混乱があった。ヒトではIBDという用語は主に潰瘍性大腸炎とクローン病という明確に定義された2つの疾患に対して用いられる。小動物領域では、これらのタイプの腸疾患は慢性腸疾患という用語で括られ、食物反応性、抗菌薬反応性および免疫抑制反応性に細分化される。馬では、IBDは初め、馬消耗症候群という総称で、腸粘膜の組織学的変化が徐々に定義されるようになって異なるカテゴリが作られた。とはいえ、最新の研究でも、使用されている用語は統一されていない。好酸球浸潤を伴う疾患では、好酸球性胃腸炎、好酸球性腸炎、好酸球性肉芽腫症、好酸球増多症候群、剥奪性皮膚炎および口内炎など、様々な名称が用いられてきた。多臓器の肉芽腫性炎症に関連した全身性または局所性の剥奪性皮膚炎は肉芽腫性腸炎や馬サルコイドーシスと呼ばれている。

 したがって、筆者は次のように提案する。最も関連性の高い最新の文献をもとに分類して、肉芽腫性腸炎(GE)、リンパ球形質細胞性腸炎(LPE)があり、好酸球性腸炎(EE)は消化管以外の臓器に病変があると多発性好酸球性上皮細胞性疾患(MEED)、全体的な腸の炎症はあるが他の臓器にはおよんでいない場合はび慢性好酸球性腸炎(DEE)に分けられ、また、炎症細胞浸潤が小腸または大腸の特定の部位に原曲している場合は、特発性局所性好酸球性腸炎(IFEE)または大腸炎(IFEC)に分類される。

 

 

参考文献

Inflammatory bowel diseases in horses: What do we know?

V. Vitale

Equine Veterinary Education 2022 34(9) 493-500

https://beva.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/eve.13537