育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬の炎症性腸疾患【IBD】 これまでにわかっていること② IBDの分類各論(Vitaleら2022)

肉芽腫性腸炎(GE)

 初めに報告されたIBDのタイプで、この100年で最も多く報告されてきたが、近年では見られなくなってきた。特徴は粘膜固有層レベルでのリンパ球およびマクロファージの浸潤があり、形質細胞や虚細胞の数は様々である。絨毛の萎縮が顕著で、病変が最も重度な部位は通常、回腸である。ヒトのクローン病や牛のヨーネ病との類似性が報告されている。GEは他のIBDの型と似ているが、ほとんどの研究者は腸管内の細菌に対する宿主の異常な炎症反応が病態形成の基礎となっている可能性があるとの仮説が建てられている。MEEDに比べると他の臓器が関連することは多くないが、肝臓や肺の肉芽腫病変も報告がある。症例の年齢、性別、血統はなんでもありだが、若いスタンダードブレッドが多く、症例のなかには家族性の素因が報告されている。

 

リンパ球形質細胞性腸炎(LPE)

 消化管粘膜固有層レベルでのリンパ球および形質細胞浸潤を特徴とする。20世紀末までに20頭が報告されたが、近年の腸管生検をもとにした病理組織学的検査によると、より所見率が上がってきた。LPEの発症には年齢、性別、血統の偏りはない。小動物では、この型のIBDと腸リンパ腫の病理組織学的特徴は似ており、LPEが腸リンパ腫に先行して発生することが疑われてきたが、それは馬においても同様である。

 

好酸球性腸炎(EE)

 EEは腸粘膜レベルでの炎症細胞浸潤、特に好酸球が主体、を特徴とする。多発性全身性上皮親和性好酸球性腸炎(MEED)は、これまで様々な用語で、好酸球性胃腸炎、好酸球性腸炎、好酸球性肉芽腫症、好酸球増多症候群および剥奪性皮膚炎と口内炎などと呼ばれてきた。しかし、腸以外の臓器への好酸球浸潤が特徴のため、MEEDと呼ぶことが望ましい。馬の年齢、性別、血統を問わず罹患する可能性があるが、若齢(2−4歳)のスタンダードブレッドやサラブレッドでより多く報告されている。小腸や大腸にび慢性の好酸球浸潤があるのみで他の臓器には病変がない場合は、び慢性好酸球性腸炎(DEE)という用語を使う。20世紀末より、局所性の好酸球浸潤を伴う疾患の報告が増えてきた。局所の辺縁からの好酸球浸潤病変が小腸と大腸のどちらでも見られるのが特徴である。好酸球が主体の小腸への浸潤は、特発性好酸球性腸炎、多病巣性好酸球性腸炎と呼ばれ、周壁性のバンドまたはより一貫した特発性局所性好酸球性腸炎(IFEE)と呼ばれる。頻度は低いが、大腸に限局した特発性局所性好酸球浸潤も報告されている。したがって、これは特発性局所性好酸球性大腸炎(IFEC)と呼ばれる。これらの炎症細胞浸潤を説明する明確な原因は同定されていないが、腸管寄生虫の関与が強く疑われていた。局所の即時性過敏症反応に加えて、寄生虫は好酸球を誘引する内在性因子を含んでもいる。

 

 

参考文献

Inflammatory bowel diseases in horses: What do we know?

V. Vitale

Equine Veterinary Education 2022 34(9) 493-500

https://beva.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/eve.13537