いわゆる背骨を構成している胸椎、腰椎および仙椎と、それに連続する骨盤は、馬に特徴的な構造と安定性があり、このことで人間が乗ることが可能になっています。
しかし、競走中の負荷がこれらの構造に蓄積されることにより疲労性障害を起こし、最終的には骨折に至ることがあるとの学説がUCDavisの解剖学研究室から報告されています。疲労骨折についての数多くの調査研究を行っているグループで、これまでにも上腕骨や脛骨の疲労骨折について報告しています。
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椎骨と骨盤の損傷は跛行の原因になりうる?
後肢跛行の原因を特定することは難しく、特にシンチグラフィのない日本においては困難を極めることがあります。しかしながら、諸外国の調査結果から、背部痛や後肢跛行の原因が椎骨にあるかもしれないことがわかってきています。
1993年10月から1994年7月の期間で、カリフォルニアの競馬場で死亡した36頭のサラブレッド競走馬について、尾側の胸椎、腰仙椎及び骨盤のストレス骨折を評価した。腰仙椎と骨盤を回収し、軟部組織をデブリードして、肉眼所見で不完全骨折線、局所的な骨増生、ストレス骨折の特徴があるか評価した。61%の検体で、尾側胸椎、腰仙椎および骨盤にストレス骨折の所見がみられた。椎弓板のストレス骨折は50%の検体で見つかり、これは背側棘突起の衝突の重症度および関節突起の変形性関節症の重症度と正の相関があった。骨盤のストレス骨折は28%の検体で見られ、高齢馬で多かった。骨盤のストレス骨折は、横突起衝突の重症度およびいくつかの腸骨との関節の変性性所見と正の相関があった。関連のない損傷で死亡したサラブレッド競走馬から得られた本調査の検体において、椎体および骨盤のストレス骨折は高い罹患率であった。背部痛や後肢跛行の臨床的な評価において、椎体や骨盤のストレス骨折は考慮に入れる必要がある。サラブレッド競走馬において、診断のついていない椎体や骨盤のストレス骨折はプアパフォーマンスや跛行の有意な原因になりうる。
目的
サラブレッド競走馬の尾側胸椎、腰仙椎および骨盤における軟部組織と骨の病変の罹患率、特徴および重症度について記述すること。
動物
36頭のサラブレッド競走馬、1993年10月から1994年7月の期間でカリフォルニアの競馬場で死亡または安楽死となった馬
方法
腰仙椎および骨盤の検体を回収し、軟部組織および骨の病変を肉眼的に評価した。
結果
2検体で急性の仙腸関節損傷があった。どの検体にも慢性的な仙腸関節の緩みや亜脱臼の兆候は見られなかった。背側棘突起および横突起の衝突所見は、それぞれ92%と97%の検体で観察された。97%の検体でさまざまな程度の椎体関節突起の変性性変化がみられた。変性性所見は椎体横突起間の関節と仙腸関節で全検体にみられた。いくつかの変性性所見は広範囲で重度であった。
結論
本調査のサラブレッド競走馬において、椎体関節突起、椎体間の関節および仙腸関節には多数の変性性所見がみられた。
臨床的関連性
馬において背中と骨盤の臨床的な評価をするときには、さまざまなタイプの椎体や骨盤の病変を考慮する必要がある。診断のつかない椎体や骨盤の病変はプアパフォーマンスや跛行の重要な原因となっている可能性がある。
椎骨に起きる疲労性障害や衝突による障害は、生前診断は難しく、解剖した検体において疲労骨折の特徴である仮骨形成や不完全骨折線の所見が得られたことから注目に値するとされています。単純X線では評価できず、現場での診断は困難を極めますが、局所麻酔や神経ブロックによる疼痛部位の特定はできる可能性があり、背部痛や後肢跛行の原因となる可能性があることを考慮しなければなりません。