育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

馬の大腿骨内側顆ボーンシストを超音波検査で診断する(Jacquetら2007)

 

超音波検査は関節内の軟部組織を評価するのに優れています。軟骨、靭帯のほか、膝関節にしかない半月板も一部は評価することができます。特に大きな関節になればなるほど、超音波で評価できる領域が増えます。

一般的に関節荷重面は評価することが難しく、これは向かい合わせになっている骨どうしが近く、超音波検査のプローブを当てることができないことが制限される理由となります。しかし、膝関節のような大きな関節では、屈曲することによってある程度関節面を評価することが可能になります。

 

今回紹介するのはフランスからの教育的な記事で、膝関節のエコー検査、特に大腿骨内側顆のボーンシストを評価する方法を記述したものです。ここで注意が必要なのですが、調査対象となった馬は乗馬用のセルフランセやフレンチトロッターが多く、サラブレッドよりも気性が穏やかな馬がほとんどでした。サラブレッドの若い馬では安全に検査できない可能性があることにはくれぐれも気をつけたいところです。

 

筆者らのグループでは後肢跛行またはパフォーマンス減退を理由に受診した馬1381頭のうち、204頭でボーンシストが見つかったとのことでしたが、年齢の平均は4.5〜7.1歳で、サラブレッド(平均2.1歳)と比較して高齢でした。これも大人しく検査を受け入れられた理由の一つかもしれません。

 

検査は鎮静を十分に効かせ、後肢を屈曲させて大腿骨を前に出します。膝関節は90度屈曲することで大腿骨内側顆の関節面にプローブを当てることが可能となります。十分におとなしければ、検査者の膝の上に患肢の球節背側を乗せて行います。

膝蓋骨から脛骨粗面までの範囲を毛刈りして洗浄しゼリーをつけます。筆者らは7.5MHzのリニア型プローブを用いており、その他に特別な道具は必要としませんでした。

 

内側顆の関節面は横断と縦断像で走査します。正常像では大腿骨の高輝度なラインの上に輝度の低いレイヤーとして関節軟骨の層が映し出されます。ボーンシストがあると、大腿骨の高輝度なラインが途切れるように見え、より大きなシストでは骨の輪郭を超えて低エコーな領域が分厚く見えます。さらに関節軟骨の層も厚く、関節軟骨が肥大している様子もわかることがあります。

 

他に確認できる異常所見は、関節液の増量や関節液中のデブリスがあり、滑膜の肥厚はより慢性的な関節症を示唆します。

 

内側顆のボーンシスト所見がある時には、半月板はより注意深く評価する必要があります。特に半月板の縦断像では、損傷があると無エコーや低エコーの線状領域が見られることがあり、線維化や辺縁の損傷がある場合も同様です。

 

超音波検査では、X線検査で検出できないような関節面のわずかな所見も拾う事ができました。しかし一方で、超音波検査では関節面の背側領域の一部しか評価できず、やはり2つの検査を組み合わせることでより良い評価が可能となります。

 

超音波検査で評価できる構造は、軟骨、靭帯、半月板、関節辺縁など多岐に渡り、これらに異常所見があると予後に影響があるため、超音波検査は症例の予後を評価する上で大変重要な検査となります。

 

 
参考文献

Ultrasonographic diagnosis of subchondral bone cysts in the medial femoral condyle in horses

S. JACQUET et,al.

Equine Veterinary Education 2007 Vol.19(1) 47-50

Ultrasonographic diagnosis of subchondral bone cysts in the medial femoral condyle in horses - Jacquet - 2007 - Equine Veterinary Education - Wiley Online Library

 

 

馬の超音波検査を幅広く解説しているアトラスはこちら