球節の矢状骨折における整復術中の関節鏡は、Mc3やMt3の顆骨折では一般的に行われる手技となってきたが、P1矢状骨折においては普及していない。
P1関節面の整復術中に関節鏡による関節面のズレの評価および関節軟部組織の評価を行うことは大変有用であると考えられた。特に関節面のズレに関しては、X線検査で評価したズレの方向と関節鏡で確認したズレは大きく異なっていた。
X線検査ではほとんどの骨片は近位-遠位方向にズレている評価され、次いで内外方向にズレているものもあったが、背掌側または背底側方向のずれは検出されていなかった。
一方で、関節鏡視下で関節面のズレを評価したところ、ほとんどが近位-遠位方向ではなく、背掌側または背底側方向のズレであったとことがわかった。
他にも関節軟部組織の損傷として、関節包の断裂、背側滑膜ヒダの出血と裂け目がみられ、背側と掌側の両方で関節包の損傷はまれであった。他にも関節面を覆う軟骨には様々な程度の損傷がみられた。背側滑膜の損傷は不完全骨折に多く、出血性損傷は前肢の骨折で多くみられた。
これらの関節軟部組織損傷が骨折に付随して発生するのか、骨折発生にかかわっているのかは今後の調査が必要である。
参考文献
背景
第一指骨骨折は、サラブレッド競走馬の長骨骨折で最も多い骨折のひとつである。関節面の崩壊や損傷は主要な予後決定因子となると考えられているが、これまでに関節鏡所見に関しては報告がない。
目的
第一指骨の傍矢状骨折に関連した球節の病変を、骨折整復時の関節鏡で評価し、完全骨折におけるX線所見および関節鏡所見と比較すること。
研究デザイン
回顧的症例集
方法
2007-2017年の期間に、ニューマーケット馬病院に第一指骨の傍矢状骨折のため来院した馬の医療記録と関節鏡画像を解析した。
結果
78頭の81関節について、傍矢状骨折整復時に関節鏡で評価した。43症例で関節包および滑液ヒダの破綻がみられた。3症例において、術前のX線検査では骨片の変位が全く認められなかったが、関節鏡において関節面のズレが確認された。また、X線検査で確認された骨折のズレ以外の方向で、関節鏡においてズレが確認されたのは14症例であった。骨折と同時に骨軟骨片や軟骨の損傷がいくつかの症例でみられた。
主な限界
回顧的研究のため、回顧できた関節鏡データにはばらつきがあった。関節鏡による骨折整復の評価や関節の一貫性は全頭で評価したが、関節背側面の評価を完全に行えているかはばらつきがあった。このような症例では軟部組織損傷が過小評価に繋がっている可能性がある。
結論
いくつかの症例では、第一指骨傍矢状骨折と同時に関節包および背側ヒダの損傷がみられ、骨折発症がおきる急性のイベントと関連しているかもしれない。関節面における骨片の変位とズレは、術前X線単独では確信をもって除外することはできない。