育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

子馬のOCDの初期病変(Olstadら2011ほか)

OCDの病態形成についてはわかっていないことも多いですが、軟骨内骨化が起きる部位への血液供給が障害されることが大きく関わっていることがわかってきています。

 

飛節のOCD

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

人の骨軟骨症(OC)研究で得られる情報は慢性的な病変の傾向がある。したがって、若い動物の初期の病変についての比較調査は、人のOCの病態形成を明らかにするためにも重要である。近年のブタにおける調査から、関節のOCは成長板軟骨に血液を供給する血管の局所的な障害を関連づける強固な根拠が明らかとなっている。この調査の目的は、多数の若い馬の脛骨遠位のOC病変ができやすい部位の組織切片を調査し、この所見が馬においても真実か明らかにすることである。胎齢191日から生後153日までの100頭の子馬の脛骨遠位部を剖検時に回収した。脛骨遠位部は薄切しHE染色して組織学的検査を行った。100頭の子馬を調査したうち9頭(12から122日齢)で、OC好発部位に初期の無症状な形成段階のOC病変がみられた。全ての病変で軟骨の壊死領域があり、5頭で軟骨管の壊死と関連していた。5頭で同じ部位の骨軟骨接合部において軟骨内骨化の局所的な崩壊があった。馬の脛骨遠位の関節OCの初期ステージに、初期病変が関わっていて、これは成長板に供給する軟骨管への血流障害からの二次的な軟骨壊死を特徴とする。豚と馬で初期病変には共通点があることから、一つの種において得られた情報が、人を含む他の種にも外挿できる可能性があることを示唆している。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由

 馬において骨軟骨症OCの病態形成には成長板軟骨への血液供給に病的変化がおきることが関係しているといわれてきたが、血管浸漬の技術を用いて報告されたものはない。

 

目的

 子馬の脛骨遠位骨端および距骨成長板軟骨における軟骨血管の成長パターンを記述すること。

 

方法

 両親にOCがある9頭の子馬を0-7週齢で安楽死しバリウム浸漬法を行った。脛骨遠位と距骨全体をサリチル酸メチルで透明化し、浸漬した血管を調べた。OCがおきやすい3ヵ所の部位を4-5mm厚で切り、実体顕微鏡と光学顕微鏡で検査した。

 

結果

 軟骨の血管は成長期の限られた期間のみ存在した。血管ははじめ、軟骨周囲膜から侵入した。近位の血管はすべて軟骨周囲膜から連続していた。

 

 

大腿骨のOCD

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

馬やその他の動物種の関節における骨軟骨症の病態には、骨端成長板への血液供給が損なわれることが関連している。子馬の飛節における血液供給パターンの形成についての過去の研究では、骨軟骨症の初期病変は骨軟骨接合部を横断する血管と一致する領域に必ずみられた。大腿骨遠位の骨端部においても血液供給の成長パターンが記述されている。しかし、この調査の集団ではこの領域に骨軟骨症の病変はみられなかった。したがって、骨軟骨症の初期病変の発生と子馬の骨端軟骨における血液供給のパターン形成との関連は調査されていない。30頭の胎児または子馬(11ヵ月未満)の大腿骨遠位部を剖検に供した。両後肢の大腿骨外側滑車と内側滑車の切片を組織学的に調査した。30頭中7頭で、16の軟骨病変がみられた。すべての病変は軟骨の血管内壊死および虚血性の軟骨壊死がみられた。過去に飛節でもみられたように、骨軟骨接合部を横断する軟骨内血管の領域に病変がみられた。病変の部位と形態から、症状のない段階の虚血性軟骨壊死が、OCDや軟骨下骨嚢胞の発症に先行して存在し、これを発症しやすいことが示唆された。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

研究を実施した理由

 子馬の飛節において、骨端軟骨成長板への軟骨への血液供給のパターン形成は骨軟骨症とリンクしている。このパターンは骨軟骨症がよくみられる部位の一つである大腿骨遠位においては記述されていない。

 

目的

 8頭のスタンダードブレッド子馬0-7週齢における、大腿骨遠位の骨端成長板軟骨への血液供給パターン形成を記述すること。

 

方法

 0から7週齢の子馬を1週に1頭ずつ安楽殺し、バリウム浸漬法により後肢の軟骨血管を明らかにした。大腿骨遠位をサリチル酸メチルで透明化し、血管を灌流して正常な骨を調査した。大腿骨遠位は5mm厚で横断に切片を作り、脱灰とX線撮影を行った。最後に大腿骨外側滑車をそれぞれの切片から切り出して組織学的に検査した。

 

結果

 軟骨に供給される血管は年齢とともに減退するが、7週齢の最も成長した子馬においても血管浸潤が残っている領域もいくつか見られた。血管は軟骨周囲や軟骨下骨の動脈から起始し、骨化中心の前線を垂直または平行に走行していた。骨の成熟過程で、平行に走行する血管の中心から骨化前線に侵入していった。血管は吻合し、軟骨周囲の血管から起始した管の遠位の血管は軟骨からの血管からの供給に切り替わる。したがって垂直及び平行に走る血管はどちらも、骨化前線を横断して軟骨へと入る。どの断面からも組織学的病変は観察されなかった。

 

結論

 飛節で見られた血管の障害されやすさは変わらず、共通した解剖学的特徴(骨化中心を通って軟骨に入る)が大腿骨遠位でも見られた。

 

潜在的関連性

 骨軟骨症は飛節と同様の病態形成メカニズムで大腿骨遠位でも起きるかもしれない。