育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

1999年の日本の競走馬における浅屈腱炎と繋靱帯炎の有病率(JRA笠嶋ら2004)

繋靱帯炎について色々調べ物をしていて、日本国内における疫学的調査は非常に限られているようでした。

JRAトレセンに所属する平地競走馬について、浅屈腱炎と繋靱帯炎の有病率を調査したものです。JRAの医療記録から回顧的に調査されたものですが、注目すべきはどうやって診断しているか、という点です。浅屈腱炎は一般的に超音波検査で低エコー部を見つけ損傷と診断されていますが、繋靱帯炎に関しては臨床症状がベースであると書かれています。

繋靱帯炎の調査をするにあたり、ここが大きなハードルとなっています。育成期の馬においては、繋靱帯近位付着部炎(これまで深管骨瘤と呼ばれてきたもの)が主ですが、X線検査における付着部の裂離像や超音波検査における骨表面の不整や靭帯の低エコー像が得られないことも多くあります。この疾患の権威である先生は、MRIが診断のゴールドスタンダードながら、それでも限界はあると述べておられます。我々がまとめて調査報告するときにも、診断については非常に大きなリミテーションがあることを踏まえて考察しなければなと感じています。

 

さて、本調査についての要点・注目点は以下のとおりです。

1999年にJRAに所属していた10,262頭の平地競走馬が対象となった

浅屈腱炎も繋靱帯炎もほとんどが前肢に発生しており、それぞれ11.1%と3.61%の有病率であった

浅屈腱炎は2歳と比較して3歳またはそれ以上でリスクが高くなり(2倍以上)、過去の報告と一致する結果となったが、繋靱帯炎は2歳と比較して、3,4歳は2倍だったが、5歳以上では5倍以上に跳ね上がり、特徴的な結果となった

これは浅屈腱と比較して繋靱帯にはより変性性変化が重点的に集積することで、高齢馬でリスクが増加した可能性が考えられる。しかし実験的に運動で浅屈腱の変性による屈腱断面積の増加が再現されたが、繋靱帯や深屈腱では見られなかったことから、変性性変化の集積によるとする仮説とは矛盾する

同じ施設を使った他頭数の調査であり、統一された大規模な集団からのデータであることから信頼性は高い

 

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov