第三手根骨の盤状骨折は、これまでにも紹介してきたとおり、競走馬において一般的に見られる骨折となっています。
大きな骨片は螺子を用いた内固定手術が行われ、比較的良好な予後が示されています。
矢状方向の盤状骨折では67%の競走復帰率が報告されています。
背側面の盤状完全骨折では42%の競走復帰率で、変位があると復帰の可能性が低くなることが示されていました。
様々な形状の盤状骨折を合わせた解析では63.1%の復帰率で、完全骨折、変位および粉砕があると復帰の可能性が減ることがわかっています。
治療方法については、完全骨折では螺子による固定が強く推奨されますが、不完全骨折の場合には保存療法も選択肢の一つではありますが、復帰率はあまり高くありません。
これらの症例報告から、骨折の予後に関わる重要な因子は、不完全か完全か、変位があるか、粉砕があるか、どの部位に骨折が発生したか、であることがわかります。
しかしながら、X線検査だけでは徹底的に評価することが難しく、手術時に初めて判明することがありました。上述の予後因子としてだけではなく、術式の選択にも関わる極めて重要な因子となるため、関節内のより詳細な評価は必須です。
MRIはこれまでにも一般的な検査で診断のつかない症例で多くの損傷が診断できることが示されてきましたが、手間がかかる上に動きによるアーティファクトが起きやすいことが欠点でした。そこで骨の詳細な評価に優れたCT検査をX線検査と比較する調査が行われました。
ニューマーケットのNEHにおいて、2014−2021年に来院してX線検査で第三手根骨の盤状骨折と診断した82の腕節について追加でCT検査が行われ、骨折の部位や方向、完全か不完全か、骨片や粉砕の有無が評価されました。
骨折の部位や方向についてはほとんど一致していたものの、X線検査で不完全と判断したもの53の骨折のうち10が完全骨折であったり、小さな骨片は見逃されていたり、さらには粉砕はCTでは60で見られましたが、X線では11しか検出できていませんでした。
骨折線の長さについても、X線検査の方が不完全骨折と判断されやすく、CTで評価するよりも短く見えていることは、手術選択に影響を与える可能性があることが示唆されています。
粉砕した骨片を取り除くのか、そもそも取り除ける場所にあるのか、は術者に委ねられ、その是非についてはまだわかりません。骨折線の長さに合わせて、螺子固定の位置を変える(完全骨折であれば真ん中に入れるが、近位からの不完全骨折であれば近位側に入れる)ことが理想的ですが、これにもまだ議論の余地はあるようです。
要約
サラブレッド競走馬において第三手根骨(C3)の盤状骨折は一般的な跛行の原因の一つである。骨折の形状に関する情報はX線またはCT画像で得られる。この回顧的調査はC3の盤状骨折に関するX線とCTの画像が一致するか比較し、CT画像で得られる情報が症例の治療に活かせるか考察することを目的とした。サラブレッド競走馬でC3の盤状骨折とX線検査で同定し、続いてCT検査を行った症例を対象とした。骨折の特徴(部位、面、分類、変位、粉砕)および、骨折線の近位-遠位方向の長さ(骨体の長さに対する割合)をX線とCTそれぞれの画像で算出して比較した。82の骨折について、粉砕についてはわずかな一致(κ0.108、P 0.031)、変位については中程度の一致(κ0.683, P <0.001)であった。X線で検出できなかった粉砕はCTで49(59.8%)、変位は9(11.0%)で検出された。X線検査では半数が撮り下ろしスカイビュー像でしか検出できなかったため、CTでのみ骨折線の長さが測定できた。X線検査で検出できた不完全盤状骨折は12で、骨折線の長さは30-52%、中央値40%であったが、CTでは38-59%、中央値53%で、統計学的な有意差が見られた(P=0.026)。X線とCTは、粉砕を評価するには最も一致しなかった。加えて、X線検査では変位や骨折線の長さを過小評価してしまい、CTと比較してより多くの骨折を不完全骨折と分類してしまった。
参考文献