馬の肘関節内側側副靱帯損傷がみられた4頭についてのケースレポート。
1頭の跛行症例を起点に調査が進められた。症例は18歳のクォーターホースで4年間にわたる間欠的な左前肢跛行を呈しており、悪化した状態で病院に来院した。跛行のグレードは4/5で、左前肢近位軸側に腫脹と熱感を有し、近位部の触診に疼痛を示した。
診断麻酔では、遠位から繋靱帯近位部までの神経ブロックおよび肘と肩関節のブロックで反応しなかった。
しかし近位部の触診に反応があることから肩と肘のX線検査を行ったところ、肘の頭尾側方向像において、上腕骨内側および橈骨粗面内側の内側側副靱帯付着部に骨増生がみられた。
続いてエコーで靭帯付着部および肘関節を詳細に検査したところ、内側側副靱帯短枝の付着部領域の上腕骨内側および橈骨粗面内側には骨表面の異常が見られ、靭帯そのものにも損傷像がみられた。興味深いことに、内側側副靱帯は短い枝と長い枝の2本に別れているが、短い方のみ靭帯の腫大と線維配列の異常がみられた。外側の側副靱帯にも損傷を疑う像が得られた。比較のため対側肢についても検査したところ、内側の短い側副靱帯に損傷が見られた。対側肢でも内側側副靱帯の骨増生が見られたが、その程度は患肢の方が重度であった。
肘関節の側副靱帯について過去にクォーターホースの報告がなく、標準的な状態が不明であるため、大学病院にいる跛行していない3頭のクォーターホースの左右肘関節について内側と外側の側副靱帯について検証してみることにした。これらには明らかな靭帯の腫大や配列の不整が見られず、最初の症例は両側の内側側副靱帯短枝の損傷および外側側副靱帯の損傷であると考えられた。
症例2も急性跛行で来院、消炎剤を投与されていたが、跛行は残っており、患肢近位部の触診に反応した。シンチグラフィで橈骨近位部に反応があった。
X線検査では同様に内側側副靱帯の付着部に骨増生がみられた。エコーでは内側側副靱帯の短枝に腫大と配列不整が見られた。
症例3は急性の非負重性跛行を呈し、来院時は患肢を内転して立っていた。他の症例と同様に近位軸側の腫脹と触診痛を示した。
X線検査では上腕骨および橈骨内側の骨増生がみられた。エコーでは内側の腫脹は漿液腫で関節とは関連がなく、内側側副靱帯の短枝に腫大、配列不整および石灰沈着がみられた。
症例4はバレルレースに出場した歴のある6歳のクォーターホース。肘関節ブロックで4から3/5に改善が見られた。橈骨近位内側の軟骨下骨に透亮像があり、橈骨内側の骨増生もみられた。エコーでは内側側副靱帯の短枝に配列異常がみられた。関節症もあることから関節内へのトリアムシノロンおよびヒアルロン酸の投与も行われた。
側副靱帯は肘関節の構造を安定化させている。外側の靭帯は短くて強く外から触りやすいが、内側は体の中心に近く筋肉が厚いため安定しているものの、同時に診断されにくい可能性がある。関節内ブロックで歩様が改善しないこともここが原因と疑われない理由の一つになっている。
文献的には側副靱帯の損傷といえばたいていは転倒など直接的な外傷によるもので、関節の脱臼または亜脱臼と関連していた。運動で内側側副靱帯を傷めて、それを超音波で診断した報告はこれまでにない。
症例は全て急性跛行を示したが、X線検査での骨増生が示す通り慢性的な経過を辿っていると思われる。クォーターホースが多く、ローピングやバレルレースといった運動で起きているようだったが、過去に行われたこの競技の跛行原因としては含まれていなかった。この調査も4年間に4頭のみと稀な疾患である可能性があるが、先述の通り診断されていない可能性もある。
特徴的な歩様は常歩で見られ、患肢を外転せず内に着くため、対側肢の前に出すようにして歩く。関節内ブロックで全く歩様が改善しないのは想定できるが少し意外な結果であった。
比較のために撮影した対側肢のX線検査でも、上腕骨と橈骨の内側に骨増生がみられることがあった。これらはエコーでも内側側副靱帯の短枝に損傷をともなっていたが、臨床症状を示すほどではなかった、もしくは患肢の跛行がより重度であるために隠れてしまった可能性がある。
エコーを撮る時のポイントは検査する方の脚を少し前に出すことと、十分に負重させることである。負重していないと筋肉の重なりが邪魔になったり、靭帯が低エコーにみえたりするという問題がある。
靭帯そのものの損傷はエコー輝度や線維配列、厚みなどで評価するが、最も劇的な変化がみられるのは靭帯付着部の上腕骨や橈骨の領域であり、ここを追いかけることが重要。
治療はフェニルブタゾンの投与(約1週間)および2−3ヶ月の馬房内休養、中央値6ヶ月で元の運動に復帰することができていた。症例数は少ないものの、運動復帰の予後は良好であると言える。
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