育成馬臨床医のメモ帳

このサイトは、育成馬の臨床獣医師が日常の診療で遭遇する症例に関して調べて得た情報をメモとして残すものです。

Ⅱ型蹄骨骨折に対するCTガイドによる内固定51症例(Smanikら2021)

競技馬や競走馬において、蹄骨骨折は一般的に見られる跛行の原因のひとつです。骨折が関節面におよび、変形癒合やその後の骨関節炎が起きることによって慢性的な跛行が残ることがあり、予後に影響を与えることがわかっています。

 

蹄骨骨折の変形癒合や癒合遅延に対する解決策として、蹄骨のスクリューによる内固定が考案されました。骨折の整復をより良いものにするため、CTで骨折の形状を詳細に評価した上で、CTガイド下における骨折の内固定術が馬でも導入され始めました。

 

今回はペンシルバニア大学ニューボルトンセンターから発表された蹄骨骨折に対する内固定手術の術後合併症と成績についての文献を紹介します。

 

材料と方法

周術期の消毒について、この報告では側臥位で保定してから毛刈りと消毒を行なっていました。

全身麻酔下でまずCTを撮り、蹄壁にマーキングしておいて、目印となるように薄く凹みをつけておきます。球節以下全体をクロルヘキシジンとアルコールのフィルムを貼り、乾燥してからアイオバンを貼っていました。そこからはエイミングデバイスを使用し蹄壁背側から蹄踵方向にかけて固定しておきます。6.0mmドリルビッドで一旦開けて、8.7mmドリルで拡張し蹄骨に当たるまで進めました。骨折部を跨ぐように4.5mm皮質骨スクリューを挿入し、カウンターシンクは8.0mmのツールを用いました。

蹄壁の穴を塞ぐために、いくつかの方法が用いられました。まずは徹底的に洗います。続いてスクリューヘッドに被せるように牛由来のコラーゲンスポンジを入れ、アミカシン0.5mlを入れました。初期の症例ではアミカシンを浸漬したPMMAを用いて、固まったらさらにその外側にはシアノアクリレートの接着剤で固めました。それ以降の症例では、アクリル接着剤を蹄壁の穴に流し込んで埋めました。さらに蹄底側の保護のためにホスピタルプレートも設置しました。

この蹄壁を埋める作業をしている最中には、指静脈を用いたアミカシン2.5gのRLPが行われました。

術後の投薬はペニシリン、ゲンタマイシンとフェニルブタゾンが用いられ、アミカシンを用いたRLPも2日間継続されました。12週間は馬房内休養し、6週おきの改装が計画され、蹄壁の蓋は取らずに削蹄が行われました。たいていの馬は5−6ヶ月後に運動を再開しました。

スクリューの抜去は感染した症例や若い馬で行われました。術前の処置や手術準備、術後の処置は同様に行われました。

 

成績

対象馬51頭のうち、33頭がスタンダードブレッド、9頭がサラブレッドで、これらはサラブレッド1頭を除き、すべて競走用の馬でした。年齢中央値は4歳、平均体重は493kgでした。骨折のうち43は前肢に発生し、発症原因のほとんどはレースまたは調教でした。発症から来院までの期間は中央値6日で、急性または亜急性が多くを占めました。

33頭で1本、18頭で2本のスクリューによる内固定が行われました。44/51(86%)が運動復帰し、競走馬に限定すると34/41(83%)が競走復帰し、内訳はスタンダードブレッド31/33、サラブレッド3/8でした。復帰できなかったサラブレッドはインプラントの感染からくる合併症、跛行の再発による繁殖入り、遅発性のインプラント感染による化膿性蹄関節炎が原因でした。

全体として中央値328日で運動復帰し、サラブレッド競走馬では中央値350日で運動復帰しました。年齢を考慮した比較ではインプラント感染の有無は運動復帰と関連する可能性は低いとされました。

術後の追跡調査において、X線検査における骨折の癒合は49%で完全な癒合が中央値182日後にみられ、47%で不完全な癒合が中央値150日後に確認され、6カ月以降に撮影された22頭中15頭で完全癒合が確認されました。

術後の合併症は48頭中25頭で記録されました。遅発性のインプラント感染が13頭、蹄関節の骨関節炎が9頭でした。インプラント感染は、蹄壁をPMMAプラグで蓋した症例で多くみられました。遅発性のインプラント感染は術後中央値177日で確認されました。これらは全症例で繰り返す蹄膿瘍とインプラントの近位からの排膿がみられ、細菌培養と薬剤感受性試験に基づいて抗菌薬が局所と全身に投与されていました。感染後にスクリューを抜いたうち、13頭中11頭は中央値205日で運動復帰しました。カウンターシンクとPMMAの蓋を付けた症例で感染が多くみられましたが、どちらが主原因かは条件がそろわず比較できませんでした。骨関節炎がみられた9頭のうち4頭でインプラントの感染を伴っていましたが、5頭は運動復帰しました。のこりのうち3頭は関係のない原因で復帰できませんでした。

スクリューの抜去は23頭で術後中央値161日で行われました。14頭はインプラント感染、5頭は予防的に行われ、1歳馬でも抜去されました。

 

考察

この調査の結果から、過去の関節面に達しない蹄骨骨折の保存療法の成績と遜色ないくらいの運動復帰率をえることができました。保存療法では骨折の遠位から癒合が進むのに対し、内固定により関節面を寄せることでより近位からの癒合を進めることができたと考えられました。

また、不完全な癒合も多く含まれましたが、X線画像での完全な癒合よりも、臨床症状に基づいた運動復帰をすべきだと思われました。

感染は最大の懸念で最も起こりやすい合併症ですが、現状では術前に蹄を薬漬けにしても組織内の細菌を除去することはできず、遅発性の感染に関しては周術期よりも術後の管理が重要となると考えられました。感染の可能性を減らすために術中にできる工夫とすれば、蹄壁のドリルビットと骨のドリルビットを変えるとか、蹄壁の穴をできるだけ小さくすること、PMMAで蓋をしないこと、術前術中にCTガイドで正確な整復と適切なスクリューの長さを決めることがあげられました。

 

参考文献

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

背景

 馬においてタイプⅡの蹄骨骨折はよく知られた跛行の原因である。これに対する内固定手術の成績についての報告はなく、合併症についても強調されていない。

 

目的

 タイプⅡの蹄骨骨折に対する内固定手術の手技を記述し、特定の因子が術後合併症や運動復帰できる能力に影響するか評価すること。

 

研究デザイン

 回顧的症例集

 

方法

 CTガイド下でタイプⅡの蹄骨骨折整復術をおこなった51症例についてカルテを回顧調査した。成績は競走成績または電話聞き取りを行なった。独立変数と成績の関連は多変量ロジスティック回帰解析を用いて解析した。

 

結果

 86%(95%信頼区間74−94%、44頭)が運動復帰した。インプラントの感染(15頭)および蹄関節の骨関節炎(9頭)は最も多くみられる合併症であった。骨関節炎は運動復帰の可能性が減ることと関連した(オッズ比0.09、95%信頼区間0.01−0.7、P=0.02)。インプラントの感染は復帰までの日数の増加と関連した(HR=0.5、95%信頼区間0.2−0.9、P=0.03)。感染の長期化は蹄壁の造孔部をアクリル接着剤で埋めた方が、ポリメチルメタクリレートで埋めるよりも起きづらく、スクリューヘッドを深くカウンターシンクした方が起きづらかった(オッズ比0.08、95%信頼区間0.02−0.38、P=0.001)。それぞれ単独の影響は不明であった。X線検査上の治癒は復帰の可能性と関連しなかった。

 

主な限界

 追跡調査の方法にばらつきがあること、比較のための対照群がないこと、治療選択のランダム化がされていないこと。

 

結論

 タイプⅡの蹄骨骨折に対する内固定手術は運動復帰を可能にするために効果的な治療方法で、保存療法による復帰率と同等以上であった。感染の発生率は深くカウンターシンクすることと、蹄壁をアクリルで埋めて柔軟で安全に蓋をすることで減らすことができた。運動再開はX線所見よりも臨床所見に基づいて行うべきである。